福祉を支える〜業務の効率化ということ〜

一昨年6月に中欧諸国へ観光旅行に行ったときのことです。
残す日程もわずかとなって、各自、土産品の過不足が頭をよぎり、折からふところ具合も気になり出したころ、いつもより早めに到着したホテルから、この日、皆でスーパーマーケットに行こうということになりました。
プラハの少し町外れに位置したマーケットは、1キロほど歩いたところにあって、まるで倉庫のように大きい。一行の姿は、店内であっという間に視界から消えてしまい、私の目当てのワインコーナーには大きな棚が並んでいました。
いくつか手に取ってラベルを確かめましたが、生産国を判別するのがやっとで、その上<軽い>の<重い>のに至ってはさっぱり分からない。しばらく店員を捜すが、待てど暮らせどやってこない。気配すらない。
諦めてぶらぶらと野菜コーナーまで行きました。すると、驚いたことに大きなケージ(籠)の底に残る2つ3つほどの割れた西瓜・・・、「ええっ!」と目を疑ったのでした。次に目に入ったのは青菜で、「小松菜に似ている」と確かめてから目を上げると、どれもこれも黄ばんでいて生気を失っている。
「おいおい、日本の品質管理を見ろよ。冗談じゃないぜ」と、思わず声に出かかったほどでした。が、すぐに思いなおし「待てよ、野菜の入替えは週に1回程度なのかも・・・。それを承知の上にちがいない。そうだとしたら、日本の売り場のチェック体制の方が、過剰サービスということになってしまう・・・。」想像はふくらむばかりです。
このことは的中して、出口のレジにはベルトコンベアーがあって、そこに私たちが買い込んだわずかばかりの品々も、かごから出して並べれば自動的に精算・・・。あとは自動支払機にカードか現金で支払って終わりというものでした。要するに、そのマーケット1店舗で私が見かけた店員はせいぜい5名程度で、人口1千万の小国ならではの、店内における、ごく普通の人員配置と相応のサービスなのかもしれません。
それに比べれば日本のマーケット内にはみずみずしい野菜がていねいに並び、お総菜コーナーには裏方と合わせて多くの店員が行ったり来たり・・・。レジには5〜6台の精算機前で、次々と価格を読み上げ商品をバーコードにかざして大忙しの店員・・・。ちょっとした店でも、常勤・非常勤合わせて50名、100名もの店員が働いているといっても過言ではないでしょう。
これとは別に、先日のNHK朝のテレビニュースでは、店の入口で携帯電話をかざせば店内の商品は自由に持出し、自動決済の上、購入できる<無人のコンビニ>を紹介していました。このことは日本の急激な労働力不足解消の取組み例として、今後、業界内で普及し、やがて私たちが日ごろ利用するコンビニで、そしてスーパーマーケットで当たり前になる日も近いと思わせてくれました。
話は変わります。
ご記憶の人も多いと思いますが、昨年5月に、「コンピューター将棋ソフトと棋士が戦う“電王戦”で、ソフト“PONANZA”が佐藤天彦名人に2連勝した」とのニュースがありました。多くの人は、「いよいよ人工知能の進化が人間の知能を超えた」と驚嘆したはずです。
そのこととは別ですが、少子高齢化社会における労働力不足をどう乗り切るかというきっきんの課題があります。特に、福祉業界は深刻で、今国会で論議されている出入国管理法改正案における外国人労働者受け入れ拡大に介護福祉業界も期待するところです。
ところが、先月初旬、これに反して、たとえばNHKテレビでは「仕事がなくなる」(『NHKスペシャルマネーワールド』第2集)とばかりに、AI導入やロボット化によって人間が仕事をうばわれる。結果、今までの仕事をベースとした生き方そのものまで問われる・・・、そんな時代の到来を予見した番組が放映されていました。
そのような状況下、折から、月刊『経営協』9月号(全国経営協)で特集「業務の見直しと効率化がもたらす効果とその可能性―ICTの有効活用とその可能性―」、次いで『月刊福祉』11月号(全社協)で、特集「福祉を支える新機軸―科学技術の可能性」を組んでいます。
それぞれの特集には、“福祉分野におけるICT活用による業務改善、業務効率化”“ICT活用による業務効率化に向けた取組”“社会福祉法人福祉施設におけるICT導入のトレンド”、そして“2040年問題と科学技術の可能性”“介護サービスの質と科学技術”と事例・論文・レポートが続きます。
現在、私たちの現場でも、福祉職員の人員不足は深刻度を増しています。今春までは、何人かの人員不足を抱えながらも、どうにかこうにかやってこられましたが、多くの福祉関係者の異口同音に訴えるところ・・・「来春の採用状況は厳しい!」のです。
そのためには、今般、就労要件の緩和となるはずの外国人労働者の雇用も視野に入れながら、他方、ICT活用も法人・施設内で急務!業務の効率化も図らなければならないところです。
まず、できることから始めることだと思います。
(理事長 矢部 薫)