報道あれこれと実際〜そして、男性・女性〜

テレビでは、「最近、殺人事件などの凶悪犯罪が増えている。世の中、どうかなってしまったのか!はたまた、不況のせいか!」などと、解説者が声を荒げてコメントを入れているのを目にします。それとは逆に、元検事の解説者が、「昔は、家庭内の殺人事件は余り報道しなかった」として、唯一、殺人事件そのものの減少を指摘したのを覚えています。果たして、殺人事件は増えているのでしょうか、それとも減っているのでしょうか。
先日、私が受けた研修の1コマ『更生保護』の講義で、殺人事件について、昭和30年代前半をピーク(年間、約3,000件)に減少を続け、この20年では年間、1,000〜1,500件の間で推移しているという調査グラフが表示されました。講師は、報道に関して、イギリスではマスコミを信用するという国民が20%に過ぎない(ほとんどは信用していない)のに、日本では新聞報道で90%、テレビ報道で80%の人が信用していると指摘して、報道と実態のかい離を、合わせて指摘していました。
私も、日本人として例外ではなく、新聞テレビで見聞きしたことを鵜呑みにしてしまいがちです。
そんな報道の1つではありますが、先月のある日、見るでもなく点けていたテレビから、「認知症になった男性は妻の名前を最後まで覚えているが、女性は夫の名前を最初に忘れる」という発言(名言?)が聞こえてきました。
そういえば、先年、往年の男優(夫)が、認知症になった往年の女優(妻)をかいがいしく介護しているドギュメンタリー番組が放映されて、一部には男優を恣意的だと評したり、衰弱した女優を衆目にさらけ出す必要があったのかと番組自体を批判する向きもあったようですが、有名俳優同士の老老介護には、考えさせるものがあったことも事実と思います。その番組で、認知症が激しい時には、身近で世話をする夫の顔を手で押しのけ、自らの体をのけ反らせた認知症の妻が「だれ?だれだ!」と言うシーンがあったのを思い出しました。
もう一つ、先日の朝日新聞記事「50歳以上に聞く『理想の異性像』」(アンケート結果)によると、「“理想の恋人”に近い人ベスト3」で、女性は、「1位木村拓哉、2位鳥越俊太郎、同2位氷川きよし」ということでした。いずれの男性もある意味“納得”の人物ではないでしょうか。比べて、男性は、「1位吉永小百合」で、若き日の数々の映画出演、最近では『かあべえ』『おとうと』などヒット作で熱演していますので、納得です。ちなみに、私は先日、テレビで、懐かしの映画『潮騒』を見て、改めて彼女の魅力を再認識したところです。3位は、「八千草薫」ですので、年齢を重ねた今も、純粋で、天然ボケのような人柄が、テレビの旅番組などを通して好感を呼ぶのかも知れません。
問題は、2位の「妻」なのです。・・・本当かなあ、わざと記事にするために・・・???などと疑ってみたりしたのです。
しかしながら、いずれの報道も、一理はあるのかも知れないと思って、知り合いの特養ホームのベテラン職員に聞いたところ、「それまで連れ添ってきた夫婦のありようですから」と前置きしながらも、「例外はありますが、女性は入居した夫への面会が少なく、男性は入居した妻に毎日面会に来る例が多いようです」とのことでした。
私が考えるに、背景には、粗大ごみ扱いされがちな老いた男性と、老いてもなお、家事・育児にあてにされる女性の特性があるのかも知れません。また、定年退職後の男性が人間関係を極端に少なくしてしまうのと比べて、女性は育児で学校で培ってきた地域に広がる多くの人間関係を持っている傾向があることも影響しているのでしょうか。
結論として、「認知症の人が、具体的に連れ合いの名前を覚えているかいないかというよりも、お互いの関心のありようとして、男性と女性では、そのような傾向はあるようです。・・・男性は優しいですね(笑)」との回答でした。
かくして、50歳を過ぎてなお、妻を恋人にする男性は、人間関係を妻に集中させて、ますます研ぎ澄まされたロマンチストとして生きるのか?・・・そんなことはない。いや、そんな側面も一応は認めるとしても、多くの人は、老いてなお妻を頼りに生きるしかない男性の姿を認めざるを得ないのではないでしょうか。
(理事長 矢部 薫)