絆と夢(職員のモチベーション)〜障がい者総合福祉法の行方〜

先日、北朝鮮拉致被害者の蓮池薫さんがNHKテレビのインタビュー番組に出ていました。拉致問題そのものへの言及は、この欄では控えさせていただきますが、蓮池さんが番組最後に語っておられたことが印象的であったので、覚えている限りを記述させていただきます。

「連れていかれてから2年後に、妻(元恋人)と再会したわけで、それから結婚して子供が1人、そしてもう1人と生まれて、子供たちには“両親は在日朝鮮人として日本に生まれて母国(北朝鮮)に戻ってきた”という設定で通してきました。言えることは、私1人から、結婚して2人に、そして子供が1人2人と増えて、この家族の“絆(きずな)”を大事に、叶わないかも知れないけれど何時か必ず日本へ帰るんだ、帰れるんだという“夢”があれば、人間は生きられる。生きるには、“絆”と“夢”が必要なんだということです。」

さて、親愛会では、毎年末に、職員に次年度の異動(退職を含む)希望を聞いていますが、「他の業界へ挑戦してみたい」という職員には、強い意思がある限りほとんど引き留めは無理です。他方、漠然とした「モチベーションを無くした」という職員にとっても、事態はかなり深刻です。
ところで、就業2〜3年目の職員に声をかけると、大方の職員から「まだ同期は誰も辞めてはいませんので、私も頑張りたいと思います」と、目を輝かせて返事が返ってきます。
元々、女性職員には、今も昔も入所型の施設勤務は、夜勤そのものが敬遠される傾向があります。また、最近は重度・高齢化傾向が拍車をかけて、夜間の労働が過重になっていることも災いしていると考えられます。また、障害福祉関連の本を開くと、入所施設を必要悪呼ばわりしてみたり、絶滅危惧種扱いする福祉の専門家がいるものですから、せっかく頑張っているのに水を差すような論評に出くわすことも多い状況にあります。
ところで、与党民主党のマニュフェストに基づいて、実質上、『障がい者総合福祉法』制定に向けて内容をとりまとめていくことになった「障がい者制度改革推進会議」の第1回議事録によりますと、ある構成員の発言に「まだまだ知的と言われている人たちは、13万人も入所施設に閉じ込められている」という記述があります。また、第3回の傍聴による要旨には「入所施設からの地域移行に何らかの答えを出す」との記述も見られます。
そもそも、その批准をマニュフェストに掲げ、与党民主党による障がい者福祉施策の大きな柱となっている国連『障害者の権利に関する条約』は、これまでのノーマライゼイションから歩を進めて、大きくインクルージョンの考え方で障害者の地域での生活を保障しようとするものです。その第19条「自立した生活及び地域生活に受け入れられること」(日本政府仮訳文)によれば、「すべての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を認める」として、「地域社会に完全に受け入れられ」るための、「効果的かつ適当な措置をとる」ことを明確に求めています。このことが、再び、安易に、つまり地域福祉に十分な手立てをしないまま、入所施設不要論や解体論の残り火に油を注ぐことにもなり兼ねないと、私は危惧します。
こうしたことから、私たちは、改革推進会議を注視していく必要がありますし、事業者団体は、特に入所施設の四面楚歌を嘆くのではなく、ここは、利用者を支える立場から論議を重ね、必要あるところは国に要望していかなければならないところです。
私たちは、これまで障害者自立支援法の嵐の中をどうにか生き抜いてきたものの、その支援法も“改革の1丁目1番地は「違憲訴訟」”と化して、廃止との烙印を押されてしまいました。そして、今現在、新たな「障がい者総合福祉法」の骨格さえ見えない、法律の成立まで見通せない状況下にあって、言わば障害者福祉業界に将来像という“夢”を描けない中で、職員の同期の“絆”も崩れがちです。
何より、重度・高齢・病弱で、現実として家族の引き取りも地域での暮らしもままならない知的障害者の最後の住処、あるいは看取りまで覚悟して、日夜奮闘してくれている職員のモチベーションが消えないように!親愛会がこれまで取り組んできた「地域福祉の充実」の方針で、入所施設を始め、やれることはしっかりやっていきたいと思います。
(理事長 矢部 薫)