尊厳を支える〜<人権感覚>これが全ての始まり〜

去る7月5〜6日に、東京国際フォーラムを会場に、「平成22年度全国知的障害者関係施設長等会議」(日本知的障害者福祉協会主催)が行われました。第1日目の基調講演『障害福祉施策のゆくえ』(さわやか福祉財団理事長 堀田力氏)は大変印象的な講演でした。(※以下、要旨とします)
堀田氏は、まず、障がい者の自立について、「精神的に縛られない“精神的自立”が人間の尊厳ある生き方を保障する。そして、そのための福祉のあり方として、“経済的自立”と“身体的・機能的自立”の補助(支援)がある」と述べて、「障害者自立支援法は、応益負担の仕組みによって経済的自立を目指したところが間違いであった。(最終的に)目指すは経済的な自立ではない」と指摘しました。
そして、私たちの自立支援のあり方として、人間の当然の欲求である「ふつうに(自由に)生きたい!」という「精神的自立の支援がもっとも重要」なことで、そのための“自分のがんばり(自助)”と“周囲の協力(共助)”のための環境作りこそが大事で、その点で「施設か、家庭か」は機能として考えることはあっても、対極的に見るべきではない。「経済的自立はそのための支柱」であって、(わずかな工賃収入に制限を強いるのではなく)むしろ生保・年金が少なくて尊厳ある生き方ができないことが問題である。「身体的・機能的自立支援のあり方は障がいの内容によって異なる」ので、(これを一元化して障害程度区分を無理やり当てはめたことが問題で)、私たち支援者は障害程度(特性)に応じて上手くサポートすることが求められるのだ、と説明しました。
具体的な「経済的自立支援」では、就労支援が大事で、
①「潜在能力の発掘と、これを生かすための支援を社会全体で」行い、これまでの“何ができないか”ではなく、“何が素晴らしいか”の視点でその人の能力を生かす。
②「特別な職場の設置」として、これまでの会社の都合(当てはめ)ではなく、職場で活かす場面の開拓が必要で、これがどうしてもできない人のために「福祉的就労」がある。
また、具体的な「身体的自立・機能的自立支援」では、医療、そして福祉では機具、ヒトもさることながら、現在、“尊厳を支える”いろいろなタイプの支援が進んでいて、これまでの“尊厳の保持”という漠然としたものから脱却した、インフォーマルなサービスの重要性を説いた。
そして、障がい者の自立支援も高齢者の自立支援も基本的には同じ、今や行政施策は要求して獲得するものだとして、最後に「障がい者が尊厳をもって生きることができない社会は、健常者も幸せに生きることができない社会」(世界人権宣言冒頭の理念)である。私たち支援者は、人間の究極の価値として「ひとりひとりを大切にする、その人らしく人間らしく」支援することで、決して虐待を作らない、無くす!「我々は、強者として世話をしているのではない、支える側の人間である。<人権感覚>これが全ての始まりだ!」と結んだ。
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ところで、昨日行われた参議院選挙の結果、政府民主党が消費税アップ論議を原因(?)に大敗して、参議院過半数を割り込む事態に陥ったとのことなので、今後の障がい者制度改革推進会議の行方はいかに・・・、そして、「障がい者総合福祉法(仮称)」の成立やいかに・・・、と危惧されます。
が、私たちは今こそ、初心に立ち返って“尊厳を支える”ことを認識し、堀田氏の言うとおり「行政施策は要求して獲得するもの」、政権の如何に一喜一憂するのではなく、これまで以上に“きちんと提言して実現させていく”というスタンスを自らのうちに課したいと思います。
(理事長 矢部 薫)