入所施設の行方〜『第一次意見』を踏まえて〜

社会福祉法人親愛会が認可されて、32年目の春を迎え、夏に入ろうとした6月7日に障がい者制度改革推進会議から『障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)』(以下「第一次意見」)が国に提出されました。
これを受けて、政府は早々と、「この第一次意見を最大限に尊重し、障害者の権利に関する条約(仮称)の締結に必要な国内法の整備を始めとする我が国の障害者に係る制度の集中的な改革の推進を図る」として、『障害者制度改革の推進のための基本的な方向について』(6月29日、閣議決定)を示しています。
「第一次意見」について、第1(章)は、序文に続いて、近年の国際動向と障害者権利条約に関する記述、そして障害者制度改革に向けた動きとそれに関する審議経過に触れて、少しボリュームのある「はじめ書き」としていて、第4(章)の日本の障害者施策の経緯と併せて先に読み込むと、本論が見えてくる構造になっています。
日頃より、良くも悪くも現行の「障害者自立支援法」という枠組みの中で、いろいろな事例について矛盾を感じることも多いので、頭の中で流れ(経緯)を整理するのに役立つと思われます。
さて、本論としての第2、第3(章)ですが、私たち福祉関係者にとっては、障害者権利条約を基調とした「インクルージョン(包括)」の理念と、それに伴う「医学モデルから社会モデルへのパラダイム(時代の思考を決める大きな枠組み)シフト(転換)」が求められているのだという印象をひしひしと感じるところです。
インクルージョンについては、新聞報道によると「障害のある子とない子が共に教育を受けるインクルーシブ教育システムを構築する」という政府の方針を受けて、特別支援教育の在り方に関する特別委員会を設置したとのことですが、権利条約における「非差別の原則」と「合理的配慮の提供」の解釈をめぐって、7月20日の文科省委員会初会合では、
①「通常学級でも発達障害の子供が3%程度在籍することを背景に、現場の 教員が困っていることも多い」ため、慎重な議論を求めたり、
②「特別支援学校はインクルーシブなシステムの中で機能しており、同じ方 向」と思っていたり、
③「インクルーシブ教育の枠内でやってきた」と思っていたりして、
 否定的な意見も多く出されたとのことでした。
他方、日本知的障害者福祉協会では『新たな障害福祉制度の検討に対する基本方針』(7月15日)の中で、障害者権利条約第19条「特定の生活様式を義務づけられないこと」を法に明文化することに対する見解として、今後の入所・通所施設機能のあり方について「地域の社会資源としての施設機能のあり方を検討していく」ことを前提に、
①「特定の生活様式」の解釈についての議論が不十分なまま新たな法律に規 定するのは適当でない
として、
ア、地域の基盤整備が脆弱なことで選択肢が少ないこと
イ、本人のニーズを十分に把握した上でその人にあった最適な生活環境を提 供する仕組みが不十分
な点が問題だ、としています。
ちなみに、第一次意見では、「地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会の構築」の観点から、(入所施設を)「社会一般とは異なる生活をしている障害者が依然として多く存在している」場として、その存在をグループホームケアホームと違って、「もちろん」「障害に応じたきめ細かな支援が必要である」と認めつつも、「限りなく一般社会生活に近い形で提供されなければならず、一般社会生活とは異なる生活形態を強いられ、社会から分離・排除されてはならない」と断じています。
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私たち、30年来障害者福祉の現場に携わってきた者にとっては、措置の時代には「共に生きる」ことを理念としながらも訓練指導に明け暮れた20年、それから支援費の時代、そして自立支援法の時代をくぐり抜けてきて・・・、その先には「パラダイムシフト」されたインクルーシブな共生社会が待っていることになりそうです。
これが文言どおりにうまくいけば何も施設福祉(特に入所施設)にこだわるものではありませんが、まだまだ地域福祉の受け皿としてのグループホームケアホームや就労の場の整備が進まないのも現状ですし、それ以上に地域社会の障害者理解が圧倒的に進まないと共生社会の実現も夢物語になりかねません。
私たちは、できるかぎりの個別支援計画下、今もなおニードの高い(※5月31日時点での県内知的障害者入所調整825件、増加傾向)
自傷や他害の行動障害が強い
②高齢で重複の障害をもつ
③重症の慢性期疾患をもつが病院での受入れがない
などの人たちを、引続き一定期間お預かりして、その専門性を有する入所機能施設として、今後も存在しつづけなければならないと思っております。
(理事長 矢部 薫)