人をつくる〜人材難時代に考える〜

 現在、社会福祉業界全般について人材難の状況が続いております。
 一般企業対象の、ある調査によると、元々の若年層の人口減少に伴う絶対的な人材不足に加えて、「7・5・3現象」(就職3年後の若者の離職率:中卒7割、高卒5割、大卒3割)などと言われている若者の離職が拍車をかけて、慢性的な人材不足に陥っているということです。
 このことは、福祉業界においても例外ではなく、かつては「欠員補充」だけで済ませていた職員採用が、いつしか中途採用の困難さを考慮した「計画採用」となり、この1〜2年は年間を通して「常時募集」に踏み切らざるを得ない状況になっています。もちろん、事業拡大による急募もありますが、かつてのような「人間関係に悩み抜いた上で・・・」の離職までには至らない、「別のこともやってみたいので」などの理由による離職も増加して、慢性的な人材不足のスパイラル(ら線)を作っているかのようです。
 せっかく来ていただいた若者を3年で手放して良いのか!?
 先日行われた、県経営協主催の経営マネジメント研修の講師本田有明氏の著作『若者が3年で辞めない法則』(PHP新書)には、その最大原因だという「いまどきの上司」意識変革論を徹底的に論じていて、大変参考になります。
 ここでは、別の『商売繁盛12の心得』(PHP)という本を引用してみたいと思います。本書は、パナソニック・グループの創始者である松下幸之助氏の著作や折々に語った発言の中から「商いの“基本”“原則”を厳選」したものですから、正確には松下氏自らが著した作品というわけではありません。逆に「厳選」ゆえにエッセンスが整理されていて、読む者に「座右の書」とせずにはおかない“経営の神様の書(バイブル)”たらしむるところだと思います。
 その中で、11番目の心得として<人をつくる>に、「『松下電器は何をつくるところか』と尋ねられたならば、『松下電器は人をつくるところでございます、併せて商品もつくっております。電気器具もつくっております』こういうことを申せ」というのがあります。
 そして、人をつくる=人材育成の具体策として、次の3点を挙げております。
「①会社としての方針をもつ
 いちばん大切なことは。“この企業は何のためにあるのか、またどのように経営していくのか”という基本の考え方、いいかえれば正しい経営理念、使命感というものを、その企業としてしっかりもつことである。」
 親愛会では、昨年度より、理念文を絵に描いた餅にすることのないよう、ノーマライゼイション理念と地域福祉を「義務」として、障害者の豊かな暮らしを支える福祉サービス供給システムを「到達目標」とした、個別支援計画、及び生活の質の向上とリスク管理などの具体的「行動」を示して、ミッション(任務、使命)として捉え直し、これまで培ってきた30年の組織風土を10のコンセプト(基本的な考え方)として整理したものを職員教育の指針としました。
 昨年度中に、新人からベテランまで、あらゆる階層の職員研修で説明しましたので、今年度はどうか・・・とパワーポイントを前に少しひるむとこもありますが、ここはこれ、理事長として今後も繰り返して講義してまいりたいと考えています。
「②臨床家を育てる
 事業とか商売というものは、いわば生き物であって、時々刻々に変化し、流動している。そういう中で仕事をしていける人間というのは、単に頭の中で理論を知っているというだけではだめで、やはり実際の体験を通じて、生きた仕事のやり方を身につけていることが必要である。」
 親愛会では、学卒、及び未経験の職員採用の条件として、おおむね3年間の入所施設勤務をお願いしています。が、近年の新人職員の意識として、社会福祉士などの資格普及に伴い、相談職への希望が増えています。現在、相談支援事業、障害者就業・生活支援事業、及び地域生活定着支援事業の3相談支援事業を県市から委託を受けて行っていますが、それぞれに経験・知識・能力ともに優れた人材を配置しています。それにつけても、まず豊富な経験が求められるところで、それには、利用者の障害・能力・思いや、家族を含む取り巻く環境としっかりお付き合いすることだと信ずるからです。ある意味、丸抱えでもある入所施設の暮らしは、臨床として学ぶに余りあるものと考えられます。
 医療業界に例えれば、入院でしっかり臨床を積んで、次に外来通院にその経験を活かしましょう・・・ということです。
「③魂を入れた教育
 何よりも大切なのは、その教育にいわば魂を入れることだ。・・・まず経営者自身、店主自身が商売に熱意をもつとともに部下の意見を十分にくみ上げることがきわめて大切だと思うのです。」
 親愛会の30年は、職員教育に力を入れてきたことも事実です。
 ご承知のとおり、近年は生半可に考えて独りよがりになるよりも、インターネットで調べれば瞬時に多くの実践・研究書をはじめ膨大な情報が集められます。その上、書店に行けばおびただしい量の専門書が並べられています。私は「プアなイノベーション(革新)より優れたイミテーション(模倣)」(東レ経営研究所社長 佐々木常夫氏)に同感する者ですので、職員に他の先進施設を見学してもらったり、あちこちで行われる研修会に積極的に参加してもらって、IT・書籍の情報に加えて、とにかく1つでも良いことを持ち帰って真似しよう、学ぶとは真似をすることから始まる。真似をして、真似をして、真似が3年続けばこっちのもの、その時点で親愛会のイノベーションとしましょう、ということにしています。
 そのことを含めた職員の目標管理・人事考課制度を人材育成制度として10年弱、どうにか形が整ってきましたので、資格取得及びキャリアパスへと歩を進めたところです。
 以上、この人材難の時代こそ、「人をつくる」ことを基軸に、親愛会役職員が一丸となって「絶対に辞めたくない職場」づくりに努めたいところです。
(理事長 矢部 薫)