『はんのう心の健康フォーラム』に参加して

12月11日に(社団)埼玉県精神保健福祉協会主催の『はんのう心の健康フォーラム』が飯能市民会館で行われました。(県発障協を通じてお知らせが来たので、私は職員2名と一緒に参加しました。)
<『こころの健康フォーラム』その1〜いのちの電話のこと〜>
第一部は「気づき・支え合うために」と題した埼玉県いのちの電話事務局長 角尾功氏による講演でした。
いのちの電話”は48年前にロンドンで始まった、自殺予防のための電話相談活動を行う、地域で支え合うための組織で、日本では1971年から東京で始まり、現在、全国50センターで全員ボランティアのスタッフが、年間72万5千件の電話相談に応じているとのことでした。
埼玉県では1997年から「埼玉いのちの電話」がスタートし、そして2006年には川越に分室が設けられて、現在、255名のボランティアスタッフが年間24,500件(1日平均70件)、1人平均32分(ただし、「死ぬ」という緊急の場合は1〜2・3時間にも及ぶ)の相談に応じているとのことでした。
最近の傾向としては、①直接的な自殺志向「死にたい」が1昨年より10%を超えた。②携帯電話の普及で、ホーム・ビル屋上・橋上などからの“直前”の電話も多い。③電話の受答えなどで、「お前資格あんのか?!」などのスタッフに対する“攻撃性のあるケース”が多くなって、対応に苦慮しているそうです。
とにかく電話を受けたという1回性(一期一会)のせっぱつまった状況下、相談者とスタッフが“つながることが大事”(「つながりたい」と「つながって良かった」)で、キーワード「明日、行ってみる」(1つ前進)を目標として、とにかく「受け答えで少しずつ変わっていただく」ことを祈りながら<良き隣人になる>信念で対応しているとのことでした。
相談内容としては、生き方・不和・対人関係・退職等々で、周りが気付くことが大事で、「どうしたらいいんだろう?」は本人が動き始める第一歩なので、関係機関の情報提供を行っている。このことは、福祉=サービス業として、「求めていることを的確に理解し、(情報)提供する、このことが大きな広がり」となることを結びとしていました。
なお、会場の参加ワーカーから「“なぜ死んではいけないんですか?”との問いにどう答えるか?」との質問に「死なないでいただきたい、1回きりの人生だから」との答えは印象的でした。
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<『心の健康フォーラム』その2〜水谷先生のこと〜>
第二部は「あした笑顔になあれ〜夜回り先生からのメッセージ〜」と題した水谷青少年問題研究所所長 水谷修氏による講演でした。
「今から20年も前の12月のこと、久しぶりに会った友だちが、酒の肴を指さして『水谷は昼間だからいいよなあ。俺みたいに夜間じゃどうにもならない。所詮、いったん悪くなった刺身はどうにもならない』と言ったのがショックで、『人間に悪くなった刺身なんてあるわけない!』とばかりに、翌日、次年度の異動希望期限もとうに過ぎたところだが、校長に無理言って定時制高校への異動を願い出た」と前置きし、自らを「19年間、夜の世界を這いまわった人間、寝ることを許されない住人」と紹介して、暴走族に名付けられたという水谷修氏こと“夜回り先生”は早口で滔々とした口調ながら、時に会場の「父親」「母親」「子どもたち」に質問し、呼びかけながら、数々の事例を中心に話を進めました。
<以下、概略とします>
転勤した定時制高校では、数えるほどの生徒がいるだけで、反抗的な態度を示し、講義も聞こうとしない。だが、出席の生徒はまだマシ、登校しない生徒の方がはるかに多い。それならば彼らの活動場所に行くしかない、とばかりに夜11時から明け方の4時まで(保護者なしの未成年者の外出は補導できる)の時間帯、毎晩の夜回りを開始した。そして、時に暴走族に、時に暴力団のアジトに入って行って解決したりして、現在までに1万人の子供たちと出会った(通称“水谷党”と呼ぶ)。
6年前に「水谷といっしょに歩もう会」を発足させて、全国で、いろいろな団体に呼びかけて、夜の11時に繁華街に出て、それぞれの方法で呼びかけ活動を行ってもらう。賛美歌でもいいし、お経でもいい。
夜の街の子供たちに、5分間でもいいから、昼間、外で美しい物に触れてほしい。そうすれば力が湧いてくる。出会った子供たちの8〜9割は、夜から昼間へと、立ち直った。だが、今までに6名は殺人、97名には自殺されてしまった。
そして、9年前に、それまでのシンナーを中心とした薬物中毒とは違った“リストカット”の子供と出会い、夜眠れない子供たちの存在に気づかされた。
リストカッターの出現率は7%で、男性のみでは5%なので、女性が多い傾向がある。女子高生の12.5%が「切ったことがある」という調査がある。しっかりした町こそ多い、ルーズな社会では多少のことは許してくれる。
そして、リストカットの特性として、死のうとしてカットはしない、むしろ自己再認識、生きようとしている。多くは剃刀を見た段階でスーッとしている。脳内物質ドーパミンの放出による。覚せい剤と同じ、専門家でなければ治せない。他方、リストカットは神や仏の前ではやらない。このことを利用して、全国のあらゆる宗教団体に呼びかけて、建物内に月〜金曜まで置いてやれる“1室を開ける運動”を推進中で、現在までにいろいろな団体から参加していただいている。
さらに、水谷氏は、「人はなぜ苦しむのか?」と問い、答えを「過去のことしか、自分のことしか考えないから」とし、「今までのことはみんないいんだよ」と認めて、「これからは死ぬことはダメだ」(人は誰かを幸せにするために生きる)と諭すことが求められると、その対応(法)を語った。
そして、現代社会は、夜のイライラ(メール・携帯・インターネット・ゲーム)が昼に入ってきて、昼夜を問わず数々の凶悪犯罪を生んでいる。不況の中、目の前で繰り広げられる両親の喧嘩等々が原因で、引きこもりを作っている。
社会全体がイライラしている、大人たちはとんでもない社会を作ってしまった。子供たち、ごめんなさい!今の子供たちは、親のイライラが原因で、叱られた数の方が多い(本来「1叱って10褒める」)。これがイジメを生む。
引きこもりを長く続けると手相が無くなる。力を入れないからだ。
水谷氏は、数々の事例を紹介し、その都度、会場の聴衆に涙を流させた。それはシンナーやリストカットに苦しむ彼らに真剣に真正面から向き合ってきたことの証しであろう、成功・失敗にかかわらず感動(強く心を動かす、魂を震わす)そのものであった。
「健全な肉体にしか健全な心は宿らない。そのためには、(心をすり減らすのではなく)肉体を疲れさすことが大事」と、繰り返し話しておられたのが印象に残りました。
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親愛会では、生活の場として、現在、川越親愛センター・親愛南の里の施設入所支援事業(合計80名)と短期入所事業(合計13名)、及びグループホーム・ケアホームしんあい8棟の共同生活援助・介護事業(合計42名)を行っております。最近の傾向として、自らを傷付けてしまう自傷や、他の人を傷付けてしまう他害などの行動を伴った利用者が少しずつ増えております。このような行動の多くは本人の精神的な要因が大きなウエートを占めている場合が多いので、その対応に苦慮しております。自らの身体を壁・床に打ちつけたり、物を使ったりして傷付ける場合もありますし、他の利用者や職員を殴ったり、突き飛ばしたりして負傷させる場合もあります。
もちろん、職員はこれらの行為を、入浴時の転倒による溺れ・食事の誤嚥による窒息と同様、危検な行為として、“目を離さない”対応をしておりますが、特に生活の場では、利用者一人ひとりの多様な行動の中で危険回避を行わなければならないので気が抜けません。さらに、夜間の手薄な時間帯では、利用者の不安定な状況によっては、夜勤職員は、個別の行動に、利用者間の行動に、極度の緊張状態を強いられる結果となります。時には、昼間の作業の場も含めて、職員自らが殴られたりすることもあって、事態は深刻です。
しかしながら、私たちは、ひるむことなく、ベースとして社会福祉士精神保健福祉士等の資格によって専門性を高めると同時に、利用者と正面から向き合うことを臨床の基本として、困難なケースに対応していかなければならないと思います。なぜならば、社会福祉に課せられた使命とは、福祉的困難さ(ニーズ)を支援していくことに他ならないからです。
こうした困難な障害者福祉の現場の状況に、ややもすれば恐怖を感じたり、手に負えないことと職員自身が自信を失って、結果、社会福祉そのものへの情熱までも失って、退出していくのではなく、“いのちの電話”のようなボランティアではなくても、“夜回り先生”のようなスーパースターでなくても、自らの生業の中でしか、自らのできる範囲の中でしかできない自分だけれど、これからも福祉の一隅で頑張っていこうとの思いを再確認させられた良い機会となりました。
(理事長 矢部 薫)