『心技体』ということ

5月22日大相撲技量審査場所が終わりました。チケットがインターネットで無料で手に入ったとかの理由で、今までテレビ中継にも興味なく、もちろん本場所に行ったことのない私の身内も観戦してきた模様です。・・・帰ってきた時の感想は、八百長問題で新聞テレビ等で叩かれていた時とはだいぶ趣を変えて、「お相撲さんはやっぱり大きい!」などというものでした。
今回の問題の解決に抜擢された日本相撲協会の新理事長(元関脇魁傑関)が、本技量場所に求めたものは、“技量を見て番付再編成を行う”のが目的だったとはいえ、今後の大相撲改革のつまるところ、古くから求められてきた相撲取り一人ひとりの「心技体を求める(見る)」ということになるのだろうと思います。
「心技体」、辞書によれば、柔剣道をはじめ日本古来のスポーツを中心に、選手に求められてきた精神力・技術・体力を言い、そのバランスを特に「心技体、共に充実してきた」などと評価するとのことです。
話は変わって、一般的に、『経営』を端的に言い表せば、「人・物・金・時・知らせ(情報)などの財産管理を適切に行うこと」ということになります。中でも、“人(人財)”、すなわち人材の管理育成に関する経営セミナーは、今や若者から中年世代にわたる慢性的な就職難とは裏腹に、事業者側にとっては今なお人材不足が深刻なことの反映か、「今いる人材を生かせ!」とばかり、福祉業界でも多く実施されているところです。
年に何回か、私ごときにも、『親愛会の経営と求められる職員像』について講演の依頼があります。私は元より「学ぶことは真似ること」、そして「プアなイノベーションより優れたイミテーション」(東レ経営研究所社長 佐々木常夫氏)を支持するものですから、先人からの引用を盛りだくさんに語るというスタイルを許していただければ・・・という前置き付きの話となってしまいます。
そんな語りの後で、ふっと、「心技体」という言葉が頭をよぎる昨今、少し思うところを述べてみたいと思います。
『心』
福祉には、「福祉マインド」があります。「福祉的心」と言いましょうか・・・、真面目さ・優しさなどです。真面目さは、社会的な真面目さ、すなわち自律=自分を律することのできる真面目さです。優しさは、社会的な優しさ、すなわち他律=他人の自律を支援できる優しさです。それに加えて、やる気・熱意・前向きの姿勢・向上心・・・、これら精神力がめらめらと燃えているようでなくてはならないのだと思います。
『技』
「福祉には、技術は要らない」「福祉職員は、辞めても使い物にならない」などと言う時代は去って、今やさまざまな要因から不適応行動を起こす人、身体的障害や病気によりいろいろな症状のある人など、その時々の様態に合った対応、適切な介助・介護を要する利用者さんが増えております。私たちには、専門資格取得と合わせて、経験の上に実務・専門知識習得の研鑽を積んで、現場に生かせる技術を習得することが求められています。「この(特定の)領域の利用者さんは苦手だ・・・」などとは、夢々思うことすらないよう、自らの技術に磨きをかけていかなければならないのだと思います。
『体』
福祉は体力勝負だという側面があって、利用者さんの突発的な行動への対応や介助・介護に伴う基礎的体力は、今や福祉職に必須の条件です。他方、必要以上に精神的な行き詰まり(トラブル)などを抱え込まないよう、もう一つの人間としての条件である生物の部分、すなわち体に運動刺激を与えるなどして、しっかりと体を作っておく、常に体力・健康を維持しておくのも当然のことと考えます。一病息災と言いますが、一つの病気を軸に、自らの健康に心がけ、悪しき生活習慣を改めるのも体作りになると思います。

私たち、特にリーダーの職責にある者には、心技体の一つが欠けても、求められる職員の、期待され、必要とされる目標値(考課値)に達しない、ということにもなりかねません。ちなみに、私こと、還暦を過ぎて、人の名前もド忘れし、体力も減退の一途をたどる心身を実感する今日この頃・・・、ここは一つ気合いを入れて、精進、努力あるのみと思うのであります。
(理事長 矢部 薫)