今年度の漢字『琢』〜平成23年度〜

4月22日、恒例の新任職員歓迎会の席で、新年度の1文字漢字『琢』(たく、みがく)という字を発表しました。
少し難しい字?でもあったせいか、会場の職員の反応はいま一つであったようですが、意味は文字通り「切磋琢磨」、自らを、また職員同士でお互いに切磋琢磨して各自の資質の向上に努めてほしいとの願いを込めたつもりです。

私は、よく生きた者がよく死ぬことができるのだ、と思っている。
それは、よく働く者がよく眠るのと同じことで、そこに何の理屈も神秘もない。
人間には完成というものはないようだ。仕事にも完成というものはないようだ。
一つ山を登ればかなたに、また大きな山がひかえている。それをまた登ろうとする。力尽きるまで。
中川一政『正念場』〜

これは、1993年に97歳で亡くなった、独学の洋画家中川一政氏の言葉です。
3月に、テレビ番組『新日曜美術館』で没後20年の特集をやっていて、私にとっては、数年前に旅行中偶然立ち寄った神奈川県真鶴町にある中川一政美術館での、あの、写生に徹した“駒ケ岳”の生命感あふれる大作や、一連の“ひまわり”“バラ”の力作との出合いがありましたので、改めて感動せずにはいられないものでした。
前述の中川画伯の言葉を借りれば「人間や仕事に完成はないのだから、力尽きるまで、自らを琢いて(磨いて)ほしい。このことが、すなわち“よく生きる”ということだ」ということになるかと思います。

時は過ぎて、5月1日放映のETV特集『二人のチャレンジド』で、内閣府政策統括官(元厚労省社会援護局障害保健福祉部企画課長、元局長)村木厚子氏と、慶応大学教授(元厚労省児童家庭局障害福祉課長、元宮城県知事)浅野史郎氏との対談がありました。2人については、度々報道されていますので、事件や病気については省略しますが、私たち福祉関係者にとっては、村木氏は企画課長在職中に障害者自立支援法の成立に向けて力を注いだことで、浅野氏は知事在職中にみやぎ知的施設解体宣言(=グループホームに地域移行)を発表し実際に宮城県舟形コロニー解体に着手したことで有名です。対談の中で、大震災に心痛める浅野氏も印象的な発言をされていましたが、特に村木氏は事件に触れて、こんな発言をされていました。(※ここに要点を紹介させていただきます。)
「非常に(大阪拘置所の)職員さんたちは親切で、よく訓練されている。自殺を一番心配されていたと思う。『泣いている暇はありませんよ。これからあなたは検察と戦うんでしょ』と最初に言われて非常にびっくりした。『しっかりしなくてはいけません』と言われて。・・・日々の生活もルールは厳しいし、自由はあまりないし、食事もなかなか・・・おいしいかと言われるとつらいところがある。・・・職員さんは非常によく見ていて気を使ってくれて、相手の人を見ながらその人に合った接し方で、拘置所の状況をコントロールし、自殺をしたり自分を傷付けないように見ていくとか・・・、それから健康管理をきちんとしていくとか、そういうことにものすごく配慮がされているということが分かった。確かに番号で呼ばれるし、ずーっと監視が付いている状況でいろいろな不自由はあるけれど、・・・よくトレーニングされていた」
「(拘置所も)入所施設じゃないですか。(私たちは)今までにやってきた入所施設の是非だとか、入所施設で暮らすことの意味合いだとかの議論をやってきたじゃないですか。(拘置所での生活も)入所施設体験だと少しずつ思うようになって、入所者の心理ってこうなんだとか、職員さんの質ってこんなに大事なんだとか(思った)。彼女たち(職員)のお陰で(拘留)164日間を過ごせたと思う」
「(拘置所での生活をしていく中で)やっぱり自分の言いたいこととか、やりたいことを諦めたほうが楽っていう心理が出てくるのが自分で分かって・・・。私の場合は限られた時間だし、大人だからいいですけれど・・・、およそ(入所)施設で長時間過ごすとか、子供たちがそういうところにいるときには、職員に余程の力がないと、諦めているものとか表現しないものを汲み取っていくことは、職員の力量がいるなあと非常に強く感じたことです」
そして、
「いつかここを出たら、福祉の人と話す機会があったら、私はこう思った、こういう経験をした、という話をしようと思っていました」
と前置きして、
「大阪拘置所は古くて汚い。冷暖房無しで結構つらい。真夏はすごくつらかった。・・・やっぱり最後に居心地の良さを決めるのは職員の質と食事は大きいなっていう風に思いました。だから、やっぱり福祉の分野って、そこで働く人の質が本当に大事なんだって身をもって実感しました」
と、結んでおられました。

私は、テレビ番組を見終わって、改めて村木氏の指摘する職員の質と食事については、親愛会の各事業所ともに最大限の努力をしたいと痛感し、戒められた次第です。
ちなみに、親愛会では、本年度、各事業所に配置基準を上回る多くの支援員を配置しました。また、親愛センターに続いて、今年度より親愛南の里でも管理栄養士を配置して、利用者一人ひとりのための栄養マネジメントを行って施設での食事提供を充実させることとしました。
後段の村木氏の発言に補強されて、親愛会の今年の目標とした1文字漢字『琢』は、さらに大きな意味合いを伴って、職員が切磋琢磨して各自の力量を上げ、そして親愛会の行う福祉サービスの質の向上につなげることを法人の責務としたいと強く願うものです。
(理事長 矢部 薫)