法人理念『生きるを支える』〜平成29年度法人全体研修会〜

8月7日、10日の2日間にわたって、川越駅西口のウェスタ川越2F会議室で、恒例の法人全体研修会(夏季研修会)を行いました。
私に与えられた講義は『法人理念について』でした。時間の都合もあり、かつ昼食後の眠い時間帯でしたので、しゃべり言葉仕様のレジュメを作りました。
その中から、一部を紹介します。
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「先月の26日は、神奈川県の障がい者施設で元職員によって19名の利用者さんが殺されてちょうど1周忌でした。皆さんの記憶にも今なお強く残っているかと思いますが、その犯人が1年を迎えるにあたって「子どものころから身近に障がい者と接していて、親御さんの苦しむ表情を見てきた。後に職員となって初めは利用者はかわいいと思ったが、だんだんと重度の障がい者は生きていてもしょうがないと思うようになった」と表明した、という報道がありました。
よく言われることですが、「命は地球よりも重い」という言い方があります。もちろんどう考えたって地球よりも重いはずはないのですが、私たちは命の重さをより強く表現した方が理解しやすい、そのことによって命を大切にできると知っています。だから何の違和感もなくこのことを了解しているのだと思います。もちろん障がい者一人ひとりの命は私たちと全く等しく地球よりも重いのです。
それに加えて、私たち福祉関係者は、経験的に「そこにいてくれるだけで周囲が和まされた」「パワーをもらいました」、あるいは家族として「いてくれるだけで有難い」などの表現をよく耳にし、また全くその通りだと知っています。
それはどういうことでしょうか。ここで別図を見ていただきたいと思います。(※図表省略:吉本隆明芹沢俊介両氏のは『存在の倫理』論を元に図表化したものを提示。)
私たちの仕事は、「個別支援計画(ケアプラン)」に基づいて、まず、「ある」存在としての利用者のベーシックな存在価値を、支援・介助等の福祉サービスという形で支えることにあるわけで、その上、可能な範囲で作業とか趣味活動とかで、「する」存在も援助していくことになります。
ちょっとややこしいですし、他にもいろいろな切り口はあると思いますが、ここではまずこの親愛会理念「生きるを支える」の“生きる”の1つ目として人間は「ある」「する」存在を生きているのだと理解していただきたいと思います。
もちろんお預かりした命は守らなければなりません」(註:2つ目の“生きる”は「家族の一員として生きる」、3つ目の“生きる”は「人生の役割を生きる」です。)
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「先月、上尾市内の障がい者の福祉作業所で、送迎車の中に利用者を残したまま6時間も気づかず死なせてしまったという事故がありました。 
先日のGH職員会議で所長の切り出した話に私が補足した話です。
天台宗の本山、比叡山延暦寺に開山以来1200年間守り続けている法灯があります。皆さんも修学旅行で訪れ、話を聞かれたことがおありでしょうか。この法灯は、菜種油に漬けた芯に火をともしているんですね。仏教では、無明を照らす知恵の光として絶対に消すわけにはいかない。どうしているか。実は、当番はいないんですね。関係者全員が心から大切だと認識して、常に気にかけて、油をつぎ足したり、芯を取りかえたりしている。だから1200年もの間、消えずに続いているというのです。すごいですね。
元来、人間は完全ではない、忘れることがある。いや、経験上、時として忘れる存在だと初めから考えたほうがよいかもしれません。もし、これが当番制だったら、100日、100回のうち1回でも忘れた瞬間に、火は消える。それじゃあ当番を複数にすればいいと2人当番制にする。そうすると(確率)100回に1回忘れるとすると、2人だから、それでも1万回に1回は消えてしまうことになる。その1回目が、初日にくるか、1年後にくるか、あるいは27年後の1万日目にくるかだけの違いで、いつしか消えてしまいます。そのリスクは無くならない。
それを10人が10人、さらに100人が100人、全員が当番であるとすると100分の1を10回、さらに100回かけていくとどうなるでしょうか・・・。いわば天文学的数字に1回、それでも消えてしまう日は必ずきます。が、私たちにとって天文学的数字は有限の無限大、つまりほぼ永遠に消えない。ですから1200年ものあいだ法灯は消えたことがなかった、今後も消えることはないというわけです。(註:ただし、信長の比叡山焼き討ちによって1回消えたことがあったが、山形県立石寺に分灯してあったものを戻したということです。)
私たちの仕事は、「業務標準表」という、いわば当番で成り立っています。この当番、つまり担当(係り)を決めるということ自体が、実は担当を決めない(全員が担当)以上に危ういものだと認識して、あらゆるリスクに対処していかなければならないのだと思います。
もちろんお預かりした命は支えなければなりません」
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「折からの社会福祉法人改革に併せて、思い切った組織改革ができるこの上のない機会だと思います。私たち、親愛会という38年間に培われてきた、いわば風土となっている職員の“優しさと真面目さ”の集団の中でこそ、講義前半の「生きるを支える」理念に基づいて行われる福祉サービスを、後半の「良い人間関係」構築(※省略)によってより質の高い福祉(幸福)へとレベルアップできると信じます。」
(理事長 矢部 薫)