入所施設の行方〜障害者制度改革の推進のための第一次・二次意見〜

スローガン“Nothing about us with us”(私たちに関係することを決める時は、必ず私たちの意見を聞いて決めること)で象徴される「障害者権利条約」の批准(締結)を最終目標として進めている、国の「障害者総合福祉法(仮称)」の平成24年法案提出・成立、25年8月の施行に向けた障がい者制度改革推進会議による『障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)』(平成22年6月7日)で、障害者制度改革の基本的考え方として、
1.「権利の主体」である社会の一員
2.「差別」のない社会づくり
3.「社会モデル」的観点からの新たな位置付け
4.「地域生活」を可能とするための支援
5.「共生社会」の実現
以上5つの柱を挙げています。

この柱を意識しつつ、ここでは、主に入所施設の今後に関する記述を集め、親愛会の2入所施設の今後のあり様を考える材料としたいと思います。

まず、「基礎的な課題における改革の方向性」の冒頭で、「(略)地域福祉が進んできたことは事実であるが、社会一般とは異なる生活をしている障害者が依然として多く存在している。障害に応じたきめ細やかな支援が必要であることはもちろんであるが、それは、限りなく一般社会生活に近い形で提供されなければならず、一般の社会生活とは異なる生活形態を強いられ、社会から分離・排除されてはならない」として、入所施設での生活を“社会一般とは異なる生活”とし、さらに“一般の社会生活とは異なる生活形態を強いられ、社会から分離・排除されてはならない”と、まるで糾弾しているかのような強い表現を用いて、現在の入所施設の機能として“障害に応じたきめ細やかな支援が必要であることはもちろんである”と認めながらも、それとこれとは別だとばかりに切り捨てています。
入所施設の役割として、親愛南の里のように、高齢・重度に加えて、病弱の利用者を抱えた施設では、知的障害を対象とはいえ、車椅子・ミキサー食・経管栄養食(胃ろう)・おむつ対応で、転倒骨折・誤嚥性肺炎・褥瘡等々のリスクに加えて、自傷・他害の行動障害に目を離せない現状があります。この辺りが、入所施設の家族会や私たち役職員が、どうしても1類型として将来も残してほしい、もっと厚い支援体制をお願いしたいと望むところではあります。
ところが、「障害者総合福祉法(仮称)の制定」中に、「(略)一人一人のニーズに基づいた地域生活支援体系を整備し、最重度であっても、どの地域であっても安心して暮らせる、24時間介護制度を始めとするサービスを提供するものとする。そのためにも、入所者・入院者の地域移行を可能とする仕組みを整備するものとする」として、“重度だから、最重度だから”の入所施設生活は理由にならないとしています。
加えて、「地域生活を容易にするための医療の在り方」中に、「日常生活における医療的ケア(たん吸引、経管栄養等)についても、一部はホームヘルパー等によって行われているが、原則として医師・看護師等のみに限定されているため、単身での在宅生活の途が閉ざされ、また同居の場合その家族にとって重い介助が負担となっている。このような状況を改善するため、以下を実施すべきである。たん吸引や経管栄養の日常生活における医療的ケアについては、その行為者の範囲を介助者等にも広げ、必要な研修や手続の更なる整備等を行う」として、“病弱者だから”の入所施設生活も、慢性期患者を中心とした在宅医療の流れからいっても、「在宅の途を閉ざすな」とばかりに排除しています。

昨年暮れの12月17日に、障がい者制度改革推進会議より『障害者制度改革の推進のための第二次意見』が出されました。
この『第二次意見』は、『第一次意見』によって「障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方」として予め計画された通り、障害者関係諸法の、その上位法である「障害者基本法の抜本改正」(平成23年)に焦点を当てた意見で構成されていて、“差別の禁止”“就労支援”“所得保障”など推進会議の問題認識として、それぞれについて興味深いところです。

ここでも、前述の『第一次意見』に継いで、入所施設の記述を追っていくことにします。

まず、『第二次意見』の「障害者基本法改正の趣旨・目的」中に、「(略)しかしながら、いまだ多くの障害者が施設や精神科病院での暮らしを余儀なくされ」ているとして、他方「地域社会における生活も多くの困難を抱えるだけでなく差別や虐待も後を絶たない現状にあり」としながらも、施設での生活を“余儀なくされた”暮らしとしています。
また「地域生活」中、「地域移行」の項では、「いかなる障害者も通常の生活形態が保障されるべきであり、家庭から分離され、見も知らぬ他人との共同生活を強いられ、地域社会における社会的体験の機会を奪われるいわれはない。障害者に対する支援は、本来、通常の生活形態を前提として組み立てられるべきである」として、語気を強めて入所施設の共同生活を“強制”“隔離”の場として捉えています。
そして、地域移行にあってはグループホームやケアホームの基盤整備が求められ、「国は一定の年次目標を掲げて取り組むべきであり、その年次目標の実現のため、受け入れ先となる住居(グループホーム、ケアホーム、公営住宅、民間住宅の借り上げ等)の計画的整備が必要である」と結んでいます。

昨年夏の参議院議員選挙民主党の管政権が福祉財源として消費税アップの論議に入りたいとの意向を示しただけ(他の要因もある?)で、結果、選挙に大敗し、近々の自民党政権下でのねじれ国会よろしく、自ら苦境に入り、年末からは小沢氏との対立から民主党の分裂、そして衆議院解散さえ取りざたされる事態となってしまいました。
福祉の財源として、消費税アップもやむを得ないところだとは思いますが、今後の政局によっては、自民党政権復活ということになれば障害者自立支援法の延命、よみがえりという事態も想定されます。
ともあれ、民主党政権下、そんな危うい状況下、障害者基本法の抜本改正まで行けるのか。そして、障害者権利条約の基本理念である「障害者を保護の客体から権利の主体へ」という考え方の転換によって、近い将来、「すべての障害者が国民から分け隔てられることなく、社会の一員として受け入れられ、合理的配慮や必要な支援の充足を通じて、障害の有無に関わらず地域社会で共に自立した生活を営むことが確保された」インクルーシブ社会が、本当に実現できるのか。実現できたあかつきには、入所施設の機能も徐々に、そして大きく様変わりして、触法や虐待障害者を主な対象者とするようになるだろうという識者の指摘も理解できるところです。
いつの時代も、理想は大きな期待を示して挫折に終わる。こんなことにならないか、年頭にあたり、いささか心配なのであります。
(理事長 矢部 薫)