今後の社会福祉法人の事業展開~検討会報告書を見る~

昨年12月19日にその中間報告を発表した「全世代型社会保障検討会議」(内閣府)と合わせて、「社会福祉法人の事業展開等に関する検討会」(厚労省)についても、報告書(12月13日)が出されました。今回はその報告書について、関連の話をご紹介しながら、本検討会のいう「社会福祉法人の連携・協働化」について考えてみたいと思います。
今から30年も前の話です。時の上司は、当時、埼玉県内に年に2~3か所ずつ整備されていった知的障害者入所更生・授産施設(現在の入所支援施設の前身)、そして通所更生・授産施設(現在の生活介護・就労系事業所の前身)、それから川越市内に次々と整備されていった心身障害者地域デイケア施設(その多くが地域活動支援センターに移行)のオープンの案内を前に、ある時、私たちにこう話されました。
「戦後、昭和26年に社会福祉事業法が成立して、昭和30年代から40年代は国県市の行政の責任、あるいは地域の篤志家の熱意によって施設整備が始まった。昭和50年代になると、知的障害児者の親たちの気運の高まり(運動)によって、養護学校(現在の特別支援学校)の義務化が実現し、そして卒業後の行先(進路)の一つとして、親たちが自ら立ち上がって、それぞれの地域の実情に合わせた入所、あるいは通所の施設が整備されてきた。ここまでは日本型の障害者福祉の歩みとして、先人たちの活動に頭が下がる。
問題は、これからだ。今、こうしてバブルがはじけて、この先のありようを考えたとき、これまでのような右肩上がりの福祉施策は望めないであろう。少し乱暴と思えるかもしれないが、以下の論議も必要な時代が遠からずのうちにやってくる。例えば、
① 市内の各法人の重複する事業等を見直し、利用者ニーズに応じた適正な量と質を検討し、それぞれの施設の専門性・効率性を高めて経営基盤の安定化を図る。
② 各法人間で人材派遣・交流を適宜に実施し、より高度な専門性をもって利用者の日常生活や社会生活の向上を図る。また、新しい地域福祉ニーズが生じたときに、法人間による「人材シェアリング」(職員が雇用されている法人の枠を超えて、他法人と協業することで、新規事業や緊急時に新たな対応が想像できるように)を行い、それぞれの施設の専門性・効率性を高めていくことが想定される。
③ 従来は、各法人が個別で必要な日用品・雑貨類・食材等を購入していたが、スケールメリットを生かした調達を実現するために、各法人の意見や仕様を取りまとめることで、業者と高い交渉力を発揮して、適切な価格で共同購入によるコスト削減を図ることを具現化する」と。
次に、本検討会の委員である松山幸弘氏による研究レポート『新しい統合医療事業体の創造』(富士通総研(FRI)経済研究所)に、触れたいと思います。
本レポートには2003年7月とありますので、少なくとも今から10年、15年以上も前のことだと思います。私はある全国研修会で、松山氏から本レポートの一部を使った社会福祉法人向けの講義を受けたことがありました。
内容は主にアメリカの“IHN(Integrated Healthcare System)”の紹介で、氏はIHNを「人口数百万人の広域医療圏において急性期ケア病院、診療所、リハビリ病院、介護施設、在宅ケア事業所、地域医療保険会社など地域住民に医療サービスを提供するために必要な機能を網羅的に有する総合医療事業体」と「敢えて定義」して、わが国でも活用可能な「広域医療圏での共同事業による効率化(枠組みの構築)」の必要性を提案していました。私は、例えば埼玉県西部地域(人口100~200万人)の大学病院を中心とした広域の医療福祉圏域を想定してみて、医療・福祉の連携に思いをはせたことでした。
ところで、厚労省は2025年を目途に、「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう」、すなわち「住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるためにも」“地域包括ケアシステム”の構築が重要だとして、人口、高齢化の地域差に配慮し、特性に応じた市町村単位のシステムを作り上げることとしました。川越市では3年前に、医師会を事務局に川越市地域包括ケアシステム構築のための「コミュニティネットワークかわごえ」が発足したところです。
他方、社会福祉法人について、この数年のこと、国の資料や福祉系専門誌の特集に、少子高齢化、人口減少社会下の労働力・財源不足を背景にした「社会福祉法人施設の大規模化」の文字が多く目につくようになりました。これについては、大規模化=合併論議は少し行き過ぎ・・・。今後も特別な事情のある一部の法人に限られることになる、と私も思います。ちなみに、合併・事業譲渡については、本検討会の分科会として引続き公認会計士を委員とする「社会福祉法人会計基準検討会」で整理を進めていくとしています。
本報告書により、国は、いわば一般企業のホールディングスカンパニーをイメージした社会福祉法人の連携・協働化に向けた仕組みとして、先の地域医療連携推進法人制度をモデルに「社会福祉法人を中核とする非営利連携法人制度」創設を提示するに至りました。
私たちは、法人の理念推進とともに、もう一つの大きな目的である“事業継続”を考えたとき、一方では地域福祉を支える仕組みとして地域包括ケアシステムによる連携を求められ、他方では社会福祉法人の経営強化のための連携・協働化が期待されているのです。
私たちは、今後、本検討会が進める「合併や法人間連携の好事例の収集」や「ガイドラインの策定」を注視していくとともに、法人を「地域における良質かつ適切な福祉の提供主体」として継続、発展させていきたいと思います。
(理事長 矢部 薫)