『論語と算盤』より①〜これからの法人経営〜

ソロバンは『論語』(道徳)によって上手くいく。同時に、『論語』はソロバン(カネ儲け)によって、本当の意味で世の中を潤していくことができる。つまり、『論語』とソロバンは、一見かけ離れているもののようで、実は非常に近いものなのだ。渋沢栄一著『論語と算盤』1927年刊(奥野宣之訳)より〜
著者、渋沢翁は、埼玉県深谷市出身(1840年生まれ)で江戸末期から昭和の初頭までの、近代日本の夜明けの時代に、500以上もの銀行・株式会社の設立・経営に関わった実業家“日本資本主義の父”として有名です。と同時に、私たち福祉関係者には日本赤十字社、現在の一橋大学、そして滝乃川学園創立者として知られ、川越市内では児童養護施設創設にも尽力されたことで知る人ぞ知るところです。
さて、今春成立した改正社会福祉法により、来年度より本格的に施行となる社会福祉法人制度改革の内容では、本法より先に改正された「一般財団法人・公益財団法人と同等以上の公益性を担保できる経営組織とする」こととなりました。
私たち親愛会は、戦後長らく行われてきた措置制度の時代を経て、現在、障害者総合支援法・介護保険法の下で、利用者との福祉サービス利用契約により社会福祉事業を行っています。措置制度とは、行政権限としての措置により福祉サービスを提供する制度で、国県市または社会福祉法人が措置費(委託費)によって運営する組織です。そのため、私たち社会福祉法人には高い倫理性が求められ、国による認可団体としての善意性がその経営理念の根底をなすものでした。
しかしながら、近年、一部の社会福祉法人にあっては、マスコミによって事件・事故、不正等の不祥事が報道されるところとなって、今般、国は契約の時代に見合うよう「公益性・非営利性を確保する観点から制度を見直し、国民に説明責任を果たし、地域社会に貢献する法人の在り方を徹底する」こととしたわけです。
その柱として、
1、経営組織のガバナンスの強化(役員の権限・責任性の明確化)
2、事業運営の透明性の向上(閲覧対象書類の拡大と閲覧請求者の国民一般への拡大)
3、財務規律の強化(いわゆる内部留保の明確化及び再投下計画作成)
4、地域における公益的な取組を実施する責務(無料又は低額の料金で福祉サービスを提供する責務)
5、行政の関与の在り方(所轄庁による指導監督の機能強化)
を掲げています。
私には、社会福祉法人を担うところ、ドイツの哲学者カントの言う
「人間は邪悪な存在である」
「公開性なしにはいかなる正義もありえないしいかなる法もなくなる。すべての法的な要求はこの公開性という性質をそなえている必要がある」〜『世界平和のために』1795年刊(中山元訳)より〜
のように、それまでの特別な性善説としての社会福祉法人から一転して、契約という一般の商取引の原理(公表による公平性)を導入して、その存在を決して特別扱いしないという、性悪説とでもいうべき社会福祉法人へと変換させる序章にあるように思えます。
また、国は、本制度改革により公益性を担保する財務規律として
1、適正かつ公平な支出管理
2、再投下可能な財産の明確化
3、福祉サービスの再投下
を義務付けています。そして、一定規模以上の法人に会計監査人の配置を求めることとしています。
加えて、各方面で行われている本制度改革についての講義の一部には、今後予想されうる税制優遇措置(課税の特例措置)の見直し論を天王山とした論調も目立ちます。
これらのことから、今、私たちはガバナンスの強化と共に、これまで以上の適正な財務管理に努めなければならない状況下にあると言えます。
上述の、渋沢翁の言う『論語』(道徳)とソロバン(カネ儲け)を用いるならば、私たちの社会福祉事業の経営にあって、福祉本来の道徳・倫理に反することなく事業を行い、得られた収入の中で適正な支出を心がけなければならない。その意味で、<『論語』あってのソロバン>が先ずあって、そして社会福祉法人経営の真の自立から<ソロバンあっての『論語』>でもなければならないのだ、と強く思います。
(理事長 矢部 薫)