少子高齢化社会の社会保障~検討会中間報告を見る~

昨年9月18日に、内閣総理大臣決済で、その趣旨を「少子高齢化と同時にライフスタイルが多様となる中で、誰もが安心できる社会保障制度に関わる検討を行うため」とした全世代型社会保障検討会議がスタートしました。
本検討会議は、内閣総理大臣を議長に、内閣官房全世代型社会保障検討室が昨年9月20日を第1回の開催日として、第2回、第3回とそれぞれ有識者を出席者に加えながら進めてきた同検討会議の第5回会議が先月19日に行われ、今回、その中間報告が示されました。
年金・労働については素案、医療・予防介護については論点整理・方向性に過ぎない記述も多い報告ですが、いわゆる団塊の世代が、75歳以上になり始める2022年度の初めまでに実施できるよう、全ての世代が公平に支え合う「全世代型社会保障」への改革を進めることは、政府・与党の一貫した方針であるとしています。
各検討会議を受けて、省庁分野別審議会の中で、さらにその部会ごとに一定の方向性(具体案)が示されています。年末に向かってやや煮詰まったかたちで、身近な年金、医療費、そして副業などについて、テレビ・新聞等で報道されていますので、その論点及び課題等も含めご存じの方も多いかと思います。
私たちには、今後の日本の少子高齢化社会における社会保障(福祉)のあり方を左右する大きな改正となりますので、興味深いところです。ここでは、報告書(第2章 各分野の具体的な方向性)により、数字を中心に見ていきたいと思います。
1 年金
(1)需給開始時期の選択肢の拡大
60歳から70歳まで自分で選択可能となっている年金受給開始時期について、その上限を75歳に引き上げる。
(2)厚生年金(被用者保険)の適用範囲の拡大
2022年10月に100人超規模の企業までは適用することを基本とし、2024年10月に50人超規模の企業まで適用する。
(3)在職老齢年金制度の見直し等
60~64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金(低在老)については、現行の28万円から65歳以上の在職老齢年金制度(高在老)と同じ47万円の基準に合わせる。あわせて在職定時改定を導入する。
(4)ねんきん定期便等の見直し
老後の選択を支援する。
(5)私的年金の見直し
私的年金の加入可能要件を見直し、加入可能年齢を引き上げるともに、受 給開始時期を柔軟化する。
2 労働
(1)70歳までの就業機会確保
(第一段階の法制)以下の選択肢を明示した上で、事業主としていずれかの措置を制度化する努力規定を設ける。
 ①雇用による措置
 (a)定年廃止
 (b)70歳までの定年延長
 (c)定年後又は65歳までの継続雇用終了後も70歳まで引き続いて雇用
(又は関係事業主(子会社・関連会社当)が雇用を確保(※(注)省略))
 (d)定年後又は65歳までの継続雇用終了後、(関係の事業主以外の)再就職の実現(※(注)省略)
 ②雇用以外の措置
 (e)定年後又は65歳までの継続雇用終了後に創業(フリーランス・起業)する者との間で、70歳までの継続に業務委託契約を締結
 (f)定年後又は65歳までの継続雇用終了後に以下のいずれかの事業による活動に70歳まで継続的に従事する。
   ・事業主が自ら実施する事業
   ・事業主が委託、助成、出資等するNPO等の団体が行う事
(第二段階の法制)第一段階の進捗を踏まえて、企業名公表による担保(いわゆる義務化)のための法改正を検討する。
(2)中途採用・経験者採用の促進
大企業(301人以上規模)における「正規雇用労働者の中途採用・経験者採用比率」を公表する。
(3)兼業・副業の拡大
兼業・副業に係る労働法制における労働時間規制及び割増賃金の取扱いに ついて、最終報告に向けて検討していく。
(4)フリーランスなど、雇用によらない働き方の保護の在り方
関係省庁と連動し、一元的に実態を把握・整理した上で、最終報告に向けて検討していく。
3 医療
(1)医療提供体制の改革
地域医療構想の推進、地域間・診療科間の更なる医師偏在対策、卒前・卒後の一貫した医師養成課程の整備、地域における看護職員をはじめとする医療関係人材の確保・育成、看護師・歯科衛生士等の復職支援・定着の推進、医師・歯科医師等の働き方改革、医療職種の役割分担の見直しにより、地域差を伴う「高齢化による需要拡大」と「支え手減少」の進展などの環境変化に対応し、質の向上と効率改善を図り、地域で必要な医療を確保する。
(2)大きなリスクをしっかり支えられる公的保険制度の在り方
後期高齢者の自己負担割合の在り方
後期高齢者(75歳以上。現役並み所得者は除く)であっても一定所得以上の方については、その医療費の窓口負担割合を2割とし、それ以外の方については1割とする。
・その際、高齢者の疾病、生活状況等の実態を踏まえて、具体的な施行時期、2割負担の具体的な所得基準とともに、長期にわたり頻繁に受診が必要な患者の高齢者の生活等に与える影響を見極め適切な配慮について、検討を行う。
②大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大
・他の医療機関からの文書による紹介がない患者が大病院を外来受診した場 合に初診時5,000円・再診時2,500円以上(医科の場合)の定額負担を求める制度について、これらの負担額を踏まえてより機能分化の実効性が上がるよう、患者の負担額を増額し、増額分について公的医療保険の負担を軽減するよう改めるとともに、大病院・中小病院・診療所の外来機能の明確化を行いつつ、それを踏まえ対象病院を病床数200床以上の一般病院に拡大する。
・定額負担を徴収しない場合(緊急その他やむを得ない事情がある場合、地域に他に当該診療科を標榜しうる保険医療機関がなお場合など)の要件の見直しを行う。
4 予防・介護
(1)保険者努力支援制度の抜本強化
(2)介護インセンティブ交付金の抜本強化
(3)エビデンスに基づく政策の促進
(4)維持可能性の高い介護提供体制の構築

それぞれについて、「今年夏の最終報告に向けて検討を進める」としていますので、今後開催される検討会の動向を注視していきたいと思います。
(理事長 矢部 薫)