医療モデル、社会モデル、そして生活モデル

障がい者制度改革推進会議から国に提出された『障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)』を受けて、6月29日に閣議決定された『障害者制度改革の推進のための基本的な方向について』(以下、「基本的な方向について」)によれば、日本の障害者福祉は大きく『障害者の権利に関する条約(仮称)』批准(締結)に向けて、平成23年の「障害者基本法の抜本改正・制度改革の推進体制等に関する法案の提出」、平成24年の「障害者総合福祉法案(仮称)の提出」、平成25年の「障害者差別禁止法案(仮称)の提出」と、それらの上位法である条約との整合性を持つべく国内法の相次ぐ成立を目指して動き出しているようです。
『基本的な方向について』(第1 障害者制度改革の基本的な考え方)によれば、「あらゆる障害者が障害のない人と等しく自らの決定・選択に基づき、社会のあらゆる分野の活動に参加・参画し、地域において自立した生活を営む主体である」ことを、1981年(国連指定)の国際障害者年の理念や2007年9月に日本が署名した障害者権利条約の原則に照らして「改めて確認する」とのことです。
また、「日常生活又は社会生活において障害者が受ける」自己決定・選択と社会参加などの「制限」は、障害者自らの属性(医療モデル、“障害者個人の適応努力”)と「社会の在り方(社会モデル、“変わるべきは社会”)との関係によって生じるものとの視点に立って、障害者やその家族等の生活実態も踏まえ」(合理的配慮)、これまでの体系(改正)に加え「制度の谷間なく必要な支援を提供するとともに、障害を理由とする差別のない社会づくりを目指す」として、「これにより、障害の有無にかかわらず、相互に個性の差異と多様性を尊重し、人格を認め合う」インクルーシブな「共生社会の実現を図る」としています。
ここで注目したいのは、上述の<障害者やその家族等の生活実態も踏まえ>という点です。これについて、さらに『基本的な方向について』(第2 障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方)では、「障害者が」(あえて言うならば)福祉を含む「あらゆる分野において」「社会から分け隔てられることなく」、(あえて言うならば)入所・通所施設を含んで「日常生活や社会生活を営めるよう留意しつつ」、“障害者やその家族等の生活実態も踏まえ”て「障害者が自ら選択する地域への移行支援や移行後の生活支援の充実」、及び、新たな障害者総合福祉法により「平等な社会参加を柱に据えた施策を展開するとともに」、福祉関係者の多くが懸念している消費税がらみの「そのために必要な財源を確保し」、予算削減の中にあっても「財政上の措置を講ずるよう努める」と決意(?)しています。
このように読むと、その決意とは別に、日本の現状では、「インクルージョン(包括)」の理念下、インクルーシブな社会の構築のため、従来の「医学モデル」から脱した「社会モデル」的認識を踏まえた共生社会の性急な実現は、いささか困難なように思えてなりません。
なぜなら、障害者権利条約に定める「合理的配慮が提供されない場合を含む障害を理由とする差別・・・(略)・・・の定義を明確化し、法整備も含めた必要な措置を講ずる」としていますが、この<合理的配慮>について時間をかけ具体的に詰めた議論をしていかないと、配慮が提供されるか・されないか以前に、そもそも論で合理的配慮の解釈・範囲等を巡って、本制度改革にとって頼みの「社会モデル」もなし崩しとなってしまう危険があるからです。
私個人の見解としては、先ずは障害者やその家族等の実態を考慮し、障害者のライフステージと、その時々のニーズに合わせた類型として、新たに「生活モデル」を加えた
「医学モデル(依存・治療型)」
=発達モデル:児童・成人期の、発達促進、及び行動・適応障害の改善を含む療育現場として福祉型・医療型障害児施設等を利用できる
「社会モデル(自律・支援型)」
=就労モデル:成人期の、様々な就労・活動形態を含む雇用現場として就労、及び就労移行・就労継続AB・グループホーム等を利用できる
「生活モデル(自立・介護型)」※
=人生モデル:成人・高齢期の、日常生活介助、及びたんの吸引や軽管栄養等の日常における医療的ケアを含む介護現場として生活介護・障害者支援施設・ケアホーム等を利用できる
を提案したいところです。

※印註:生活モデルを含む3類型は、『岡部耕典氏「翼の会」勉強会資料2004.11.3』を参考にしました。
(理事長 矢部 薫)