去年今年に思うこと〜“意味のないことは起こりはしない”のか〜③

(その4)
年は明けて、正月2日、恒例の『第88回箱根駅伝』では、地元川越で練習を積む東洋大学チームが総合優勝し、往路5区、高低差800メートルを一気に駆け上る難コース出場のキャプテン柏原竜二選手の大活躍が改めてクローズアップされたところです。その柏原選手が、往路優勝を決めた記者会見の中で、次のように言っていました。
「みんながトップでつないできてくれたので本当に嬉しくて、走る前に、ほんと、涙が出そうだったんですけど、僕のところでしっかりと差をつけようと頑張りました。僕が苦しいのはたった1時間ちょっとなので、福島の人たちに比べたら、もう、全然きつくなかったです」
本人は淡々と語っていましたが、昨年は、年々加熱していく周囲の期待(重圧)から自らをスランプ(一時的な不振)としてしまったようですが、今年にかけた思い(リベンジ)に自らの郷里の復興への祈りが加わって、超人的な区間新記録が生まれたものと思われました。

ともあれ、去年に引き続き、今年も東日本大震災に関するニュースが流れない日はないくらい、多くの課題を抱えたまま、思うような復興には至らないのが現状のようです。さらに、福島原発の片付けが終了するまで40年もかかるというのですから、岩手・宮城両県の地震津波災害)の復興と違って、福島県地震津波放射能災害)の復興の困難さは、根本的に原子力を扱うことの人間の慢心(あるいは暴走)を戒めるかのような側面を伴って、測り知れないようです。
しかしながら、私たちは希望を見失うことなく、前述の日野原先生や柏原選手のように、1人ひとりの人生の中での努力が、もう一段上の努力が、いつの日か“意味のないことなど起こりはしなかったのだ”と誰もが思えるような、オールジャパンの一日でも早い災害復興につながるものと、私は信じたいと思います。
かくして、被災された方々ばかりではなく、日本人全員の去年今年は、ひたすら重く、焦りだけが増していくような錯覚に陥りがちです。だからこそ家族の、友の、隣人の“絆(きずな)”を確かめ合う時なのだと思います。

最後に、当時世にふさわしい名句を紹介し、年頭の挨拶とします。
「めぐり来る 時空の重さ 去年今年」佐藤一城
「去年今年 永劫北斗 揺がざる」住谷不未夫
「去年今年 貫く棒の 如きもの」高濱虚子
(理事長 矢部 薫)