健康は1日1食にあり〜現代養生訓〜

今年1月、日本の将来推計人口が5年ぶりに改定されました。それによると、今後も少子化・無子化が進むとすると、日本の総人口は2010年からの50年間で、1億2800万人から8700万人へ、4100万人(率として32%)も減少し、高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)は、現在の23%から40%に大きく上昇するとのことでした。
このことの意味するところ、産業界はじめ私たちの福祉業界でも将来予測として事態は深刻で、若年労働者の減少による働き手の減少により、これからの福祉の主な担い手は中高齢者にならざるを得ない・・・という状況は、誰にでも予測がつく話と言えると思います。
また、今後、減少の一途をたどらざるを得ない高齢者の年金額を考えると、ささやかながらも期待していた定年退職後の悠々自適の暮らしは、夢の又夢として吹き飛んで、思い切った年金改革でも起こらないかぎり、「このままでは生活できない」実態が、国民年金受給者から厚生年金受給者へと波及して来るのです。
そんなこともあって、何歳になっても働かざるを得ない、最期の最期まで家族を当てにできない、現実として頼るところは自分自身の丈夫な身体!という中高齢者の意識傾向が進んで、従来からの健康法・ダイエット法・・・、さらにアンチエイジングまでテレビは賑やかです。ちなみに、テレビ放映の度に、スーパーマーケットから突如、納豆など特定の食品が消えたり(完売)するのですから、国民の健康志向は空前のものがあるようです。
しかしながら、また、飽きやすいのもこの手のブームです。人間誰もが知ってのとおり、無養生くらい魅力に満ちたものはないからかも知れません。
その無養生を戒め、“土用の丑の日にはウナギ”を提唱したとかで有名な、江戸時代中期の儒学者貝原益軒先生の『養生訓』によれば、
①あれこれ食べてみたいという食欲
②色欲
③むやみに眠りたがる欲
④徒(いたずら)に喋りたがる欲
の4欲を抑えることが、長寿を全うするための条件だそうです。
ですが、多少の個人差はあるかも知れませんが、“あれこれ食べてみたい、恋愛してみたい、眠りたい、たまには思い切りおしゃべりしてみたい”のが本音、なかなか養生ままならないのが人情でしょうか。

ところで、現代版養生訓と言えば“アンチエイジング(抗老化医学)”・・・、「人間いつまでも若くありたい」という心理欲求に見事こたえた時代の寵児、南雲吉則医師は、独特な健康法で“若さを取り戻した”人として有名です。テレビで見ても、今年57歳ながら30代後半くらいの容姿、52歳の時に調べた検査で、脳年齢38歳、骨年齢28歳、血管年齢26歳という驚異の数字をはじき出したそうです。
NHKで放映された特集番組によれば、
①温めるな
冷水シャワーで体を冷やすと体温を上げようと内臓脂肪が燃える。
②スポーツをするな
激しいスポーツで心拍数を無理に上げずに、血液の循環をよくする。スーパースターの気分で姿勢を正して早歩き、仕事中の貧乏ゆすりなどが効果的。
③食べるな
基本は1日1食、お腹がグーッとなるまでは食べない。(南雲医師の)1食の内容は野菜中心のおかず3種に、味噌汁・玄米という粗食。
④食べたらすぐ寝ろ
どんな動物だって食べたらすぐ寝る。寝る時間の、夜の10時から夜中の2時までの間は“ゴールデンタイム”、成長ホルモンがガンガン出てくる。
に、その秘訣があるということでした。(『南雲流若返り法4か条』)

それに関して、私なりに心当たりのあるところを記したいと思います。
<スポーツをするな>
南雲医師は「僕たちが無駄にスポーツをすることによって、心拍数をただ単に上げればよいのか・・・、昔はそういわれていた。・・・(中略)・・・心拍数を上げないで、体を動かして循環を良くするにはどうしたらよいか。貧乏ゆすり(血液を送り戻すふくらはぎのポンプ運動)をするとかよく歩く、息が上がらない程度に歩くとか、ああいう風な運動がいいですよ。適度な運動がいいですよ。(※急な心拍数を上げる運動は体に負担となり、老化を早める)」と指摘し、早歩きを実践しています。
他方、他の健康番組で、スロージョギングを最善の健康法の1つとして紹介しているのを見たことがあります。また、心拍数を無理のない程度まで上げて、併せて体温の上昇を図ることによる効果を奨励する健康法もあったように思います。
私は、マラソン(ジョギング)を始めて、ちょうど5年になります。平日は体調により早歩きとスロージョギングを交互に織り交ぜ、土曜日はジョギング、日曜日は早歩きを習慣としています。いわゆる“高血圧の薬を飲んだ還暦ランナー”を自認しているのですが、大会ともなると、10キロ走までならともかく、ハーフ、そしてフルマラソンになればなるほど苦しくて、南雲医師の指摘もうなずけるところです。
<食べるな>
「お腹が空いているほうがいい仕事ができるんです。僕らが元気で働いているのは、今お腹の中にある食べ物が燃えているんじゃなくて、何日も前に食べたものが消化吸収されて、そして脂肪になって、それが必要な分だけ分解されてエネルギーになっていくんですよ。」
「無理に食べない。お腹がグーと鳴ったら食べことにしている。(※すると、若返り遺伝子が作動して若返りホルモンが分泌され若返る)」そうで、南雲医師は1日1食、夕食のみ500kcal程度の栄養摂取量を継続して、医師というハードな仕事をこなしているのですから驚きです。
私は、若き日に、1週間程度、禅寺で坐禅や作務(さむ、寺院内の作業)をしたことが何回かありました。現在でも、修行僧のいる禅寺では、1日2食で、夕食は“薬石”(やくせき)といって、その昔、僧たちが「宵の、あまりの空腹をこらえるために温めた石を腹の上に載せて紛らわせた」ことによるそうですが、今でも昼の余ったご飯を雑炊のようにして食べるのが常で、ですから、残飯が少ないとしゃばしゃばな水っぽい粥となって、腹の虫を黙らせるには程遠いものとなることもしばしばでした。
また、江戸時代元禄期以前は1日2食ということですので、よほどの重労働でもないかぎり無理に1日3食を食べて、『日本人の食事摂取基準2010年版』によるところの成人男子1日あたり2,100〜3,000kcal(成人女子1,650〜2,250kcal)にすることもないようです。
また、聖路加国際病院理事長の日野原重明医師(100歳)は、現代の飽食に警鐘を鳴らして、腹8分目以上の“腹7分目”を提唱しておられます。
私はというと、さすがに1日1食というわけにもいきませんが、ある休日の昼前のこと、試しにお腹がグーと鳴るまで、そう、子供の頃に経験したような空腹を感じるまで食べるのを控えてみたところ、南雲医師の言うように「空腹感は感じても、空腹を感じない」。いくら経っても感じないどころか忘れてしまう。それは、「何日も前に食べたものが脂肪になって、それが分解されて」活動に必要なエネルギーを補っているからでしょうか。その日の夕食は、いつもどおりの習慣として、空腹感を満たすための食事でしかなかったのは、もちろん、腹部にまだまだ余裕(脂肪)があるからだと納得した次第でした。
したがって、空腹を感じないようであれば無理には食べない。そして、時に暴飲暴食となることを考慮して、私流にさらに“腹6分目”を心がけることも・・・、自らの65歳以上、あるいは70歳以上の未来予測から逆算した健康法の1つ(養生)にしたいと思います。

なお、番組中、加熱する最新のアンチエイジング医療取材報告VTRを見終えて、南雲医師は、
「今、アンチエイジングという言葉には抵抗が生まれた。つまり、歳をとることに対抗しようとするのではなく、グッドエイジングというか与えられた寿命の中で気力体力ともに若々しく最後まで生涯現役で過ごしていこうというのであれば、エイジングに対抗するのではなくてエイジングと寄り添いながらいい年の取り方をしていくような医学を目指したほうがいい」とコメントして、自らの健康法としての若返り法の結びとしていました。
(理事長 矢部 薫)