人材は活用して人財となす〜求人難の時代の“人材”を考える〜

平成12年(2000年)の介護保険制度施行により、これと相前後して、にわかに社会福祉法人向けの経営講座があちこちで開催されて、人・物・金・時(機会)・知らせ(情報)の資源をめぐる一般企業からヒントを得た経営手法(術)が、私を否が応でも少しずつ、これまでの運営から「経営」へと駆り立てるのでした。
折から、職員の「がんばっている職員もがんばらない職員も同じですか?!」との職員処遇(給与)を巡っての不満が噴出したこともあって、思い切って人材育成を目的とした人事管理の一環として、平成18年度より人事管理制度(目標管理制度・人事考課制度)を導入したところです。現在までに、目標管理・人事考課表、それぞれ形を親愛会独自な項目に変更しつつ、職員一人ひとりの能力、業績、勤務態度・意欲などをより客観的に評価する給与・賞与連動型の制度を継続中です。
人事育成の本道は研修です。親愛会では、新任職員対象のOJT、法人及び県社協・県発障協・県経営協等の行うoff−JTへの職員参加、そしてSDSを行う職員のための例えば社会福祉国家資格取得のための受験講座など、多岐にわたる研修体系を年間計画としています。
ところで、どうにかつないできた、つい数年前までの<(買い手市場)人材が豊富な時代の人材育成>とは、高度成長期の『モーレツ社員』まではいかなくとも、例えば人材育成のための講座でよく使われる「2・6・2の法則」(働きアリ2・普通アリ6・怠けアリ2の例が用いられることが多い)によれば、特に下位の2を育成して全体のレベルアップを図ることが求められたものでした。
そして、職場では、縦の関係重視で、上司は尊敬されるべき存在として、部下を「君」で呼んで、<叱咤激励・注意型>人材育成となります。
結果、できなければ「自ら辞めてもらう」ことも視野に入れて、そして、「新しい人材を探す」で良かったのでした。
時のスローガンは「がんばり」(仕事第一、家庭は二の次)で、ストレスは付きもの、有給休暇その他福利厚生はいざという時のために使う、人事考課はあくまでも結果に注目!・・・といったところでしょうか。
そんな時代もすっかり終焉・・・、団塊の世代の定年期を迎え、若年労働者の絶対数の不足を背景に、今や、公務員等一部を除くほとんどの業界が空前の人材不足の時代に突入しております。
昨今の<(売り手市場)人材不足の時代の人材育成>の考え方として、前述の「2・6・2の法則」は曖昧となって、むしろ役割ごとに一人ひとりの強みを活用して人材を人財となすことにあるように思います。
この考え方に立つと、職場では、横の関係重視で、役割分担を明確にし互いに尊敬し合う存在として、「さん」で呼び合って、注意は最小限にとどめ、<提案・アドバイス型>人材育成となります。意識的には、人材は旧来の育成するのではなく、むしろ活用するものと考えた方が自然かもしれません。
結果、人材不足を背景に、例え現在与えられた仕事ができなくとも「辞めてもらっては困る」のだから、上司は職員一人ひとりの活躍できる場を一緒に探す。場を見つけられないのは上司の責任ということになります。
時のスローガンは「楽しい職場」(ワークライフバランス、仕事と家庭の調和)で、ストレスは禁物、有給休暇その他福利厚生は享受すべきもの、残さずに使いましょう、人事考課は一人ひとりのキャリア形成の過程(方向と長さ)に注目!・・・ということになると思います。
さて、人材は育成されるのか?育成されないのか?
私たちの実際の支援現場では、福祉特有の日々の仕事の流れから、目に見える数値や形での実績となって表れることは少なく、半年1年単位では目立った育成を実感できないことが多く、逆に育成(結果)を急ぐあまりダメ出し評価となってしまいがちです。
『インディペンデンツ・トピックス』掲載の㈱チェンジマスターズ代表取締役法貴礼子氏コラム「「2−6−2の法則」と人材育成(今日から取り組める簡単な経営のヒント)」によれば、「人が行動を起こすための前提は「気づき」であり、「気づき」がない限り人は主体的に行動できないし、自己成長しない」としています。
よく言われることですが、適材適所が人を育てる(作る)ということがあります。親愛会でも、職場内の部署替えや他事業所への異動によってそれまでとは働く姿が打って変って活き活きとして、周囲の職員を驚かすことがあります。
このことは、<現状維持モデル=気づきがあるが変われない人>や<ビジターレベル=気づきもなく変われない人>が、異動を機に<自己成長モデル=気づきがあり変われる人>に変化した結果と言えるかと思います。
氏は、自己成長モデル(2)以外の大多数(6と2)の人材育成では、叱咤激励して「本人が困難と感じる行動を促す」のではなく、「気づき」を促し、「比較的容易に踏み出すことのできる小さな一歩を設定してあげる」ことの大切さを指摘し、「『やる気があるから成果が出る』のではなく、『(小さくても)成果が出るから、やる気が出る』のだ」と結んでいます。
今後の人材育成は、コーチングと併せ、一人ひとりの成果の出る場の設定(柔軟な役割の見直しと配置転換)、つまり≪人材活用≫を積極的に考えたいと切に思うのです。
(理事長 矢部 薫)