これからの人材確保〜“人材発掘”〜

ある会議の席上、こんな発言がありました。印象的でしたので、その趣旨を、私の聞いた範囲で紹介します。
「人材不足論議の俎上に上がるのが、第二次ベビーブームが終わってからの、30年来の少子化傾向によってもたらされた若年労働人口の絶対数の減少で、少子化こそ課題だということだ。少子化について調べると、例えばイギリスの産業革命期においても見られたことだが、GDPが飛躍的に高い時代には女性の晩婚化が進み、少子化傾向にあるという。このことは他の国々でも同じような傾向にある。
日本の現状を見た場合、少子化はあながち若い女性の責任というわけにはいかない。そうではなくて、問題は高齢者が多過ぎるとさえ言える状況にあるということだ。日本は、第二次世界大戦が終わって、第一次ベビーブームによる、いわゆる団塊の世代を作ってしまった。加えて、近年の高水準の医療が日本を世界一の長寿国に押し上げて、結果、人類史上例を見ない高齢者の割合の高い国となった。
現在、こうしたことを背景に、国を支える産業界はじめ、一般企業・公務員等々、日本国中どこに行っても人材不足なのは明らか。
ところで、県内の高校進学率は97%にまで達したと言われる。他方、多くの中途退学者を出しているのも、教育界の現状(大きな悩み)でもある。
もし、福祉業界の人材不足を補うとしたら、その専門性を生かして、学校と協力して高校中退者を対象に福祉体験プログラムを行うなどして、彼らを福祉業界に引き込む、これくらいの努力をしていかないと、これから始まる団塊の世代の、絶対的多数の高齢者をお世話できない事態に陥る。」
というものでした。
国の統計によると、近年、年間の高校中退者は6〜7万人(2〜3%)で推移しているということです。
平成22年度に行われた『若者の意識に関する調査(高等学校中途退学者の意識に関する調査)』によると、高校中退後、「働いている」56.2%で、内訳は、「フリーター・パートなど」77.2%、「正社員・正職員など」17.1%で、同年齢の雇用者のそれぞれ65.6%、31.2%と比べると高校中退者が正社員等として働いている割合は低いとの結果が出ています。このことは、能力主義といわれる現代の社会においても、今なお引続き学歴社会にあることを反映したものと思われます。
そして、対象者の家族の経済的なゆとりでは、「苦しい」と「やや苦しい」で63.0%で、主な収入源として「生活保護を受けている」3.8%もあって、高校中退者の家族の経済的困窮の実態が浮かび上がっています。
その意味では、高校中退者が福祉体験プログラムを経て、福祉現場に先ず入って、一定の経験年数と試験で取得可能な資格を得て・・・、つまり福祉業界で正職員としてのキャリアを積むといった道も、彼らの人生の選択肢の1つに積極的に加えていただいてもよいのではないかと思います。
ところで、厚生労働省の定義による「ひきこもり:さまざまな要因によって社会的な参加の場がせばまり、就労や就学などの自宅以外での生活の場が、おおむね6か月以上失われている状態であって、重い神経疾患がない者」が、定義は若干違いますが、2010年内閣府調査によると70万人(15歳から39歳人口の1.8%)を超えている実態が、度々新聞紙上等で掲載されています。
このようなことを背景に、平成24年7月5日付けで、厚生労働省は『「生活支援戦略」中間のまとめ』を発表し、経済的困窮者と社会的孤立者のための包括的かつ伴走型の支援態勢の構築を目的に、民間との協働による就労・生活支援を展開するため、NPO社会福祉法人との協働を促し、「中間的就労」などの「多様な就労機会」の確保を期待したいとの内容を示しました。
今春、その具体的な動きとして、都道府県・政令指定都市中核市を対象に、「生活困窮者自立促進モデル事業」(1相談支援事業2就労準備支援事業3「中間就労の推進」事業4家計相談支援事業)を開始する運びとしました。
親愛会では、平成22年5月より開設した「地域生活定着支援センター(県委託事業)」により、もともと障がいという自覚もなく生きてきた、療育手帳を持たない、あるいは持ちたくない境界型の人たちをも対象にするようになり、改めて福祉の枠組みだけでは解決できない言わば「中間就労」の場の重要性を認識し出した矢先ですので、一日も早く自立促進事業が全国的に、そして身近に展開されることを期待しています。
親愛会では、2年後に開設予定の特別養護老人ホームへの人材確保の前哨戦として、来春の職員採用計画では、例年の計画採用人数に加えて拡大採用を考えております。
<景気が上がると福祉へ人はやってこない>
今春より、アベノミクス効果で、円安・株高(乱高下)等々、世の中は景気が上がったかのような状況を呈しています。ですが、実態経済となりますともう一つ、特に企業の積極的な設備投資・ベースアップの話も聞こえてきませんし、少し中元商戦が上向きになった程度でしょうか。
そうした中にあっても、福祉業界の人材不足は確実に、深刻にやってきていて、来年度の採用は遅れ気味です。親愛会の採用担当者は私も含めて、あちこちの就職フェアに出向いて、“元気な親愛”をアピールしております。
しかしながら、前述のような人材発掘をも含めた人材確保の道を急がなければ、今後の福祉労働者の絶対数不足を補うことはできないように思います。
(理事長 矢部 薫)