家族のあり方〜同居・隣居・近居・遠居〜

春先のテレビ番組で、東日本大震災被災者対象の講演会が放映されていました。その中で、講師は、今なお家族がばらばらになったまま避難生活を強いられて悲しい思いをしておられる会場の皆様に、現在の多様な家族のあり方を紹介して、「いざというときには、半日で行ける範囲に別々に住んでいる今風な家族だと考えればよい」と提唱していました。終了後の映像で、皆様の、元の生活に戻れない寂しさからいっとき解放されて、いくらか晴れやかになった表情と、「お話を聞いて心がすっきりしました」との感想が今でも思い出されます。
家族のあり方についてネットで調べると、大震災を機に自治体が実施した調査をはじめ、それまでにも行われていたものも含め、研究者、住宅関連会社等の実態・意識調査が公開されています。
資料としては少し古いのですが、NRI野村総合研究所『生活者1万人アンケート調査』(2000年)の中に、この時点ですでに「同居」「二世帯住宅で同居」「隣同士・同じ敷地内」「歩いていける距離」「交通手段を使って1時間以内」「日帰りで往復できる」「日帰りで往復できない」家族の区分で調査されています。その中で、伝統的な「同居」家族、および海外転勤族を想像させる「日帰りでは往復できない」家族の減少傾向、一時期はやった「二世帯住宅で同居」家族の低迷、その他いわゆる別居の形態としての「隣同士・同じ敷地内」「歩いていける距離」「交通手段を使って1時間以内」「日帰りで往復できる」家族の増加傾向が指摘されていて、注目されます。私たちは、自身の家族を考えたとき、このパターンを実感できると思います。
ところで、35年来の親愛会の入所施設ご利用の皆様の場合、平成15年(2003年)3月までの措置費の時代は県市の行政処分として入所されたのですから、それまでの家族との「同居」から切り離されて“施設に預けられた”との意識があったかと思います。それが制度切替えによって、現在は障害者総合福祉法上の契約に基づいて利用することになったのですから、上記区分をあてはめれば「歩いていける距離」から「日帰りで往復できる」までの間の様々な家族のあり方として、福祉サービスの利用の仕方によっては、それまで以上に“家族の一員としてお付き合いできる”ことも可能となったわけです。
私ごとですが、昨年より、生家で兄たちと住む母を特別養護老人ホームにお願いしたことがありました。もちろん特養ホームも介護保険下の契約ですので母への介護内容により利用(契約)すればよいのです。が、私たち家族にとっては生母を家族から離して施設に預けてしまうのだという自責の念と、認知症の介護から解放される安堵感に加えて、領域は違っても同じ福祉職に就く私は、利用する側利用される側の意識が入り混じって、内心複雑な思いがあったのも事実です。
最初に利用したA施設では、時に施設側から頼まれたものを届けるほかには用事もなかったが、「かわいそうだから」と2週間に1度くらいのペースで面会に通ったものでした。それは、預けっぱなしをも家族の都合と肯定する従来からの入所施設のイメージの延長線上に予想されたものでした。
次に利用したB施設では、次々と「〇〇を持ってきてください。使いなれたものであればなお結構です」と日常生活用品の持込みを頼まれ、さらに居室の飾りつけも求められて、多い時には3日と置かずに施設に行かざるをえない事態となりました。そのため、夜道を母のもとへ車を走らせたこともありました。
しかしながら、B施設に通い続けているうちに、ある日のこと、私は、生家を離れてから45年間、このように親しく母子の付き合いをしたことがなかったことにふっと気がついて、まだ物心もつかない孫(母にとってはひ孫)を連れて、私の家族全員で楽しく面会するようにもなりました。
そんな矢先に、母の寿命も尽きて、ほどなく亡くなってしまいました。
そして、今、前述の家族のあり方を考えたとき、それまでは生家に任せきりで、母とはたいした関係も持たずに済ませてきたのが、一転、予想だにしていなかったことですが、「同じ敷地内」に住む私の長男家族と、「交通手段を使って1時間以内」(施設)に暮らす母と・・・、少しの間でしたが、母も一員とした家族の付き合いを実現できたわけです。このような機会を与えてくれたB施設に感謝の気持ちでいっぱいになります。
親愛会にあって、私の卑近な一例を考え合わせると、施設で暮らしている利用者の簡単な用事といえども、家族との付き合いの中で済ませた方が利用者本人にとって楽しい場合も多いはずです。施設側も遠慮せずに本人の用事を家族にお願いして、言い換えれば施設側で安易に代理でやってしまわない。そして、もう一度利用者と家族に、家族としてのあり方を見つめなおしていただいて、特に面会すら遠のいてしまっている家族にはぜひともご理解を得て、それぞれの家族の「歩いていける距離」「交通手段を使って1時間以内」「日帰りで往復できる」のいずれかのうちに家族のあり方を実感し、家族としてのお付き合いをしていただきたいと思うのです。そして、利用者にとっては離れていても家族の中にあることの“幸せ”を、家族にとっては利用者もかけがえのない家族の一員であることの“家族愛”を深めていただければ、施設側も、職員一同この上ない喜びとするところなのです。
(理事長 矢部 薫)