もう一つの高齢病弱者対策〜さがみ野ホーム竣工〜

確か、昨年6月の「全国知的障害関係施設長等会議」(全国知的障害者福祉協会主催)の休憩時間のことだったと思います。会場通路やロビーで行き交う人たちの中に、数年ぶりに見つけた神奈川県綾瀬市にある障害者支援施設「さがみ野ホーム」施設長の佐竹さんは、開口一番、こう言ったのでした。
「矢部さん(親愛会)は特養ホームで知的障がい者の高齢化に対応しようとがんばっているんだろうけど、僕(聖音会)は違う。このままの支援施設でいいんじゃないかと思う」
そんな言葉を繰り返し思い起こしながら電車を乗り継いで訪ねた先は、さがみ野ホーム改築(建替え)竣工式会場でした。
早速、佐竹さんと握手を交わして、案内されたのは、さすがに平均年齢が70歳以上という入所者の状況を反映させた、全室個室で電動ベッド、車いす対応自動水栓洗面台付きの居室でした。他にも、寝浴の機械浴槽などを見るや、親愛会で行われている特養ホーム整備事業の工程会議や備品選定で目にしている、お馴染みの仕様となっています。さらに、障がい者施設ながら1・2階フロアは30名1単位の、食堂兼居間を中心とした従来型の特養ホームをイメージさせてくれます。私は、許可を得て、エリアごとにたくさんの写真を撮らせていただきました。
さがみ野ホームは、昭和54年8月の開設ですし、川越親愛学園(現川越親愛センター)も同じ年の5月に開設ですので、老朽化という点では同じ状況下にあります。ちなみに、親愛センターが昨年度末に行った耐震診断では、万が一にも不適合ということになると、あわや建替えか耐震補強工事か・・・など、一同、心配したところです。が、幸いなことに数値上十分にクリアーしていて、構造上問題なし。残すところは改築(修繕)が今後の課題ということになりました。
親愛会では、第二施設(親愛南の里)について、それまでの川越親愛学園利用者の高齢化(この時点では“高年齢化”)を憂慮した家族会から「高齢者棟」建設の要望を受けた結果、平成13年に半分を高年齢者対象とした障がい者施設として建設した経緯がありました。そして10年余を経過する中で、利用者に認知症に近い症状が出始め、あるいは病弱傾向により車いす・粥食・機械浴・おむつ対応の利用者が増え、中には嚥下障害から胃ろう造設をせざるをえない利用者も現れて、現在特養ホームさながらの生活を送っている多数の利用者がいます。
他方、現在、県内の障害者支援施設への入所待ちの、いわゆる“待機者”は1,300名を超え、市内においても60名を超えているとのことです。そのため、実質待ちの状態にある障がい者が、結果としてやむをえず長期にわたってショートステイ枠を利用しているため、本来の緊急一時保護やレスパイトでの受入れを困難にしている状況が続いています。
ご承知のとおり、国は障害者自立支援法施行を機に、障がい者施策をそれまでの施設福祉からグループホームを含めた地域(居宅)福祉へと転換し、一部には大規模施設の解体(小規模化)を進めました。
親愛会では、入所定員の減を図りグループホームの整備を続け、いわゆる地域移行を進めた結果、現在では40名以上もの皆さんが8か所のホームで暮らしています。しかしながら、ホームの利用者にも高齢化の波は徐々に押し寄せつつあって、高齢に伴う持病を抱え、疾病で入院する利用者も増えて、退院後は、できれば支援施設に戻りたい。できれば特養ホームでの暮らしが望ましいという人が出てきました。
かつて、障害者支援施設では、いわゆる入所施設利用者の滞留化(利用の長期化)が盛んに議論の俎上に上がりました。しかしながら、一定の地域移行を果たした現在では、在園者の高齢病弱化で、結果としてますます滞留することとなって、人によってはこのままで終末期を迎えざるをえない状況下にさえあります。
また、グループホームでは、今後、利用者が次々に高齢病弱化した場合、支援施設に戻れない、あるいは新たに入所することができない場合、建物構造の不備や看護師の不在などの課題(リスク)を抱えたまま生活しなければならないことになります。そして、ホームはついに高齢病弱の障がい者であふれ、このままでは支援に困難を来たすことも想像できて、親愛会のスタンスとしてどうしても特養ホームの整備は急務であったわけです。
その意味では、今後の一つの高齢病弱化対策の積極的なあり方を示すモデルになると自負するものです。
もちろん、現在整備中の特養ホーム「みどりのまち親愛」は、一般の高齢者を対象にした広域型の老人介護施設なので、高齢障がい者専用というわけにはいきません。親愛会では、市内第6圏域の高齢者の受け皿として、あるいはデイサービス・ショートステイによる地域福祉の機能を十分に果たしつつ、高齢病弱障がい者の最期のステージ(受け皿)をも含めた高齢者施設の整備事業を、その設立趣旨とした次第です。10月より入居者の募集を開始しました。
そして、今月6日には、親愛会ご利用の皆様のうち介護保険適用可能な利用者のご家族対象に説明会を開催しました。しかしながら、障害者支援施設利用時よりも主に居住費(うち部屋代)と介護保険料(一割)が負担増になることもあって、介護度が3以上出たからといっても、すぐさま入居につながるというわけにもいかないのが実情ではないでしょうか。
もちろん、利用者の、住み慣れた所がよいという考えもあるかと思います。そうした場合、冒頭のさがみ野ホームのように、全員が全員、高齢病弱障がい者のために全室特養ホーム仕様へ改築―ということは、特別に高齢障がい者だけを集めた施設でもないかぎり無いとしても、利用者の高齢病弱化の出現に合わせて、例えば棟・階や浴室の一部分を特養ホーム仕様にした障害者支援施設の対応は必要なことと思います。
親愛会の2つの障害者支援施設の今後を考えたとき、今回のさがみ野ホームの改築がもう一つの現実的な今後の高齢病弱化対策の積極的なあり方を示すモデルになると思えるのです。
(理事長 矢部 薫)