親愛和み俳句会10年〜とりわけ1年を振り返って

今年7月に、親愛和み俳句会が結社10年目を迎えました。設立当初のことは本欄『親愛和み俳句会のこと〜5年になります〜』(2011-12-26)に詳しく記載していますので、省略します。
以降の5年間で、そのうちの2年にわたって、会場を長野主宰(親愛会前理事長)の家の近くのさいたま市盆栽四季の家に移して、句会を行いました。四季の家は盆栽町の閑静な住宅街にあって、庭に面した和室の中で開催できたことはよい思い出となりました。
その後、主宰が徐々に体調を崩されてしまい、加えて、4月の四季の家会場予約が取れなかったことを機に、今春より元の川越市内の福祉施設「ことぶき生活支援センター」に戻して、再び村上施設長さんにお世話になっています。
また、他の3名の会員も休会あるいは退会でしょうか・・・、現在、それぞれの都合で長らくお休みが続いています。
結果、満10周年を迎えたところですが、参加者も村上・勝浦・秋和・宮内・矢部の5人だけに限られて、少し寂しい思いをしたのも事実でした。それでも着実に句作の力はつけたように思えるのですが、少人数のせいか、回ってくる「清記用紙」の俳句の傾向からいつも以上に作者が推測できるように感じたこともありました。
幸い、今秋より勝浦さんの友だちの横山夫妻が入会されましたので、合わせて7名・・・、久しぶりに活気のある句会を取り戻しています。
今年の和み句会から、秀句(高得点句)を紹介します。
1月
女剣士の 気合交じるや 寒稽古 (一光)
冬晴や 白鯨のごと 雲の行く (薫)
スマホ手に 人込みぬうや 冬帽子 (一光)
ぱちぱちと 燃ゆる暖炉や 黙(もだ)の夜 (敏幸)
省略の 多き掃除に 年用意 (操)
2月
春立つや 鯉は深きに ひるがえり (敏幸)
春風や 気づけば鼻歌 帰り道 (真砂)
豆踏みて 春立つ音の 肌触り (敏彦)
春日ざし 胸もとゆるめ 我子を抱く (真砂)
春立つや 年長組の あしたかな (操)
3月
微生物の 四十億年 土匂ふ (敏幸)
壁塗りの 足場にビユーと 春一番 (一光)
荒山河 すべて春日の 中にあり (敏彦)
4月
春の雨 老後は農と 決めにけり (薫)
新緑や 断崖に座す 釈迦如来 (敏彦)
5月
余す陽を 砂場の縁に 移す夏至 (薫)
鯉幟 ガバッと風を 飲み込みぬ (一光)
6月
紫陽花や 小唄教授の 女文字 (一光)
粒ごとの 光の意地や さくらん (敏幸)
蝸牛 老犬伏して 動かざる (薫)
薔薇の園 立ちつくしつつ 叫びたし (敏彦)
8月
暮なづむ 空に腹向け 蟬八日 (真砂)
帰省子や 子ども茶碗で 締うどん (薫)
雨消えて 一山の蟬 一斉に (真砂)
鉄塔の 脚踏ん張るや 雲の峰 (一光)
9月
行く夏や 置いてきぼりの ゴム草履 (一光)
葉裏借る 三千世界 鉦叩 (薫)
曲り家の 今の主は 馬追虫 (敏幸)
朝焼の 雲出迎へる 風の盆 (敏幸)
大皿に 秋盛り合はせ 峡の宿 (由起子)
10月
赤い羽根 照れ臭そうに 大男 (真砂)
虫時雨 指揮者不在の 音楽会 (一光)
鰯雲 今日も明日も 予定なし (文雄)
鷹渡る 桶狭間より 関ヶ原 (由起子)
秋日和 生き物位置を 定めけり (敏彦)
11月
ジャズメンの 派手なスウィング 文化の日 (一光)
鷹の眼に 点る炎や 狩支度 (敏幸)
冬立つや 土間ごと眠る 製茶場 (薫)
星月夜 ロープのごとき 蜘蛛の糸 (敏彦)
12月
深夜バス 雑踏抜けて 冬銀河 (由起子)
ちゃぶ台に 弁当一つ 暮易し (薫)
漱石の 歩みし舗道 冬菫 (由起子)
砕け散る 波の飛沫や 枇杷の花 (敏幸)
てっぺんの 柿が見守る 過疎の村 (真砂)
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本俳句会とは別ですが、最後に俳句にまつわる話を紹介して、今年の納めとします。
9月8日、当法人の総合相談室所長大谷治彦さんが逝去されました。大谷さんとは、3年半にわたって公私ともにお付き合いをさせていただいたので、本欄で紹介したいことも多くて・・・、いまだに思い出文記述の整理がつきません。
その大谷さんから、入院したばかりの7月29日の夜に、私の携帯電話に送られてきた俳句のみの、結果として最後となってしまったメールが残っています。
生きる道 見える望みよ 蝉時雨 (治彦)
ついぞ俳句会に入ることのなかった大谷さんの最期に作られた、かつおそらく生涯唯一の句で、この時の祈るような気持ちが「よ」に込められて、読む者の心に痛いほど偲ばれます。下五の「蝉時雨」は、無類の本好きで有名だった大谷さんが、中でもこよなく愛した藤沢周平著『蝉しぐれ』が想い起こされ、上五「生きる道」に重なって、愁傷の情を深めます。
弔句、
人の世は 二人称半よ 暮易し
さいごまで ゆずらぬ覚悟 ほうし蝉 (薫)
ご冥福をお祈り申し上げます。
(理事長 矢部 薫)