”行く末のことはさておき”〜長野操先生遺句集〜

親愛会の前理事長であった長野先生が亡くなられて1年が過ぎました。当時お世話になった親愛会の役職員の有志で、また俳句会の仲間で、と墓参を計画していますが、なかなか日程が合わずに日延べになっております。そんな矢先に、ご息女から「父の遺句集を作りました。俳句会の方々の人数をお教えください」とのメールが入りました。
早速、とりあえずの10冊をお願いしたところ、まもなくお手製の句集が送られてきました。添え文に「遺句集と言ってもホチキスでとめただけの粗末なものを作りましたのでお恥ずかしい限りですが」と謙遜されていますが、長野先生お手製の花瓶の写真がさりげなく掲載された上品な仕上がりです。
週末に行われた“和み俳句会”で会員に配布したところ、主宰として先生のご指導をいただいた会員はもちろんのこと、直接にはお会いすることもなかった会員にも好評でした。「懐かしい」「早や1年」「先生らしい終句」「製本がきれい」「私の遺句集もこれくらいが良いかな」などと聞こえる間に、私の手元に1冊も残らなくなりましたので、追加を注文させていただきました。
本遺句集の表紙題は『土そのあと』です。“そのあと”というのは、先生が平成22年9月に上梓された句集『土』以降ということです。『土』は、先生傘寿のお祝いに、「これまで(俳句作りを始めて15年間)私の下手な俳句作りを批評し励まして呉れた妻や子供たちが句集を出してあげたい」(あとがき)との申し出により、選句、編集したものとお聞きしています。
長野先生が命名、発足した“和み俳句会”は平成19年7月からですから、その『土』中には私も知る俳句がちらほら見えて、私たち会員にとって今でも思い出深い句集です。「土は万物の祖であり母です」(あとがき)と句集のタイトルを紹介しています。
もちろん、代表句、
終戦日 その日まで掘る 壕の土
全国俳句大会入選句で、その題詠であった“土”を十分意識されてのことだと思います。句集『土』より三句を選ばせていただきます。
初日の出 茶筅誘ふ 鼠志野
喜寿きたり 妻と酌み交ふ 春の宵
闇に舞ふ 螢一灯 近づきぬ
その後の6年半の間に、先生が作られた「『土』以降の六五〇句から母が八十余句選びました」(添え文)という遺句集です。
その中から、最終の三句をご紹介します。
杖支え 歩数増したり 冬日かな
一冊の 最後のページ 霜夜かな
ゆく末の ことはさておき 日向ぼこ
淡々とした句風の中に、春三月、数え年88歳の誕生日にご逝去された長野先生の最晩年の心境が偲ばれます。
(理事長 矢部 薫)