仕事のやり方〜一流のプロになるには〜

NHKテレビテキスト『仕事学のすすめ』で伊藤忠商事相談役の丹羽宇一郎氏が「人間力養成術」(専門力が仕事をひらく)の中で、次のように述べております。
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1、「会社に入って10年ぐらいはアリのように泥にまみれて、とにかく勉強して働きなさい」
まず、新入社員について、「先輩や上司を馬鹿にしてはいけない。自分がわずか数年働いただけで、先輩や上司がやっている仕事をくだらないと判断すること自体が、仕事を分かっていない証拠です。仕事というものは、実に奥が深いということが見えていない。  若い新入社員は、小さな穴から世界を見ていて、見える範囲が世界のすべてだと思っています。しかし、世界はもっと広い。見えているのは、ほんのごくわずかにしかすぎないのです。  3年ぐらいで仕事がわかってたまるか。仕事をとやかく言う前に、まず仕事そのものを知ることが大事なのです。満足に働きもしない前から、こんな仕事はくだらない、自分に合わないと、決めつけてはいけない。まず一生懸命働いて、その上で文句を言いなさい。それに対する戒め」だ、と言っています。
さらに、「仕事はどういうものかを知り、考える上においても、まず働かなければならない。仕事にどういう意味があるかは、とことん働いてこそ初めてわかる。」として、「はたから見ると、夜遅くまで働いて、過労死するのではないかと思えるぐらい仕事をしている人がいる。しかし、本人は全然疲れていないし、努力しているとも思わない。それが本当に仕事が好きな人、仕事を楽しんでいる人です。仕事のプロになる上において、そういう時期が必要なのです。その分野の専門性を持ち、プロになるためには、そういう一時期をどこかで過ごすべきだと思います。それを新入社員にも味わってほしい。そのためには、最初の段階の“泥にまみれ、アリのようになって働く”という時期を経過しないといけない」としています。
そして、評価について、「『学校だと自分を自分で評価できる。優がこれだけある、俺はできるんだと。ところが、会社では試験があるわけではない。優良可もつかない。自分がよくやっていると思ったり、肉親がよくやっていると褒めたりするのは、何の役にも立たない。他人が自分を見て、あいつは文句も言わないで一生懸命やっている、信頼できる仕事をしていると思ってくれる。これが評価というものだ。俺はこんなにもやっていると偉そうな顔をしたりするのは、仕事がまだ足りないんじゃないか』」と、かつての上司の言葉を紹介し、「邪念を持たないで、与えられた仕事をみんなから信頼されるようにすることが大事なのです。評価は人がすることです。人間は仕事を一心不乱にやっているときが最も美しい。仕事に本当に打ち込んでやっている人間は、こいつは本気だなとわかります。」そして、「この仕事の分野では誰にも負けないというぐらい仕事をしているわけだから、いざ苦境に直面したときに、それが自分の力になります。それを『底力』と言うのです。底力とは、ほかの人ができないぐらい仕事をやったという自負心であり、自信なのです。」と、述べています。

2、「次の10年は、トンボのように複眼的な思考を持って勉強しなさい」
次に、中堅社員について、「最初の10年は、専門力の土台をつくっただけです。自分の体験や経験だけでは限られたものにしかすぎません。・・・トンボの複眼力によって、幅広い目で自分の体験や経験以上のものを習得しなければなりません。  そうしないと、自分の周りの経験だけで世の中をはかるようになってくる。俺はこんなにできるんだ、こんなに経験したんだと、夜郎自大(自分の力量を知らずにいばること)的になってしまいます。しかし、実際には、自分の経験は針の穴から世界を見たような程度で、世の中にはたくさんの経験をした人がいっぱいいます。」
「専門を磨くには、学者と議論できるぐらいのことをやらなければならない。・・・自分のやっている業界で誰にも負けない、学者にも負けないぐらい学べ・・・、本を読んでいると情報の洪水に溺れて、本来の仕事ができなくなるなどと考えなくてもよいのです。やってみると大したことありません。・・・今すぐ本屋へ行って、(課題となっている)本を全部集めてみても、たかだか何十冊でしょう。・・・仕事が忙しいときに限って読みたくなるのです。本当に本を読む人はたぶん、忙しいときに限って、よく読んでいるはずです。
どうすればそんなに読めるのか考える前に読んでいれば、活字病みたいに本が好きになる。そのうち、読まないと眠れなくなったり、お腹が空いた、食べなきゃと思うのと同じで、自分の心が飢えて本を求める。頭にも心にも栄養を与えなければだめです。好気心がどんどん湧いてきて、次はこれを読みたいとなる。それは苦痛じゃなくて、単に読みたいんだから、睡眠時間を削ってでも読めるのです。
そうした中で専門性が身につくのです。そういう努力もしないで、『私は10年、この業界にいるのだから専門家だ』とはとても言えません。」と、説明しています。

3、「次の10年は、人間とはどんなものかという経営の真髄に触れる勉強をしなさい」
最後に、管理社員について、「人間は感情によって左右されていて、合理的に判断するばかりではない・・・現場を知るということは、そういう人間の心理、人間とは何者かを学ぶことなのです。  部下が苦境に陥ったとき、経験のない上司がいれば、部下が遊んでいるからこういうことになると思うかもしれない。しかし、自分が上司になったときに苦労した経験があると、部下の気持ちがよくわかる。そのときは本当に神も仏もないと思ったけれど、あとになってみれば、人間を学ぶために、神が与えてくれた絶好の経験だったかもしれないと思うのです。」
「経営の神髄が社員をどう動かすかということだとすれば、人間とは何者か、この勉強をしない限り経営はできないということなのです。」と、結んでいます。
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大変長い引用文となりましたが、経済評論家の勝間和代氏は、折にふれ「一流といわれるプロになるのは1万時間かかる。1日3時間勉強して、10年かかる。」と、言っています。
もちろん、勉強ですから、通常の仕事内外において3時間、専門性を高めるための勉強をして10年かかるのです。このことからも10年単位で仕事を見た場合、上述の文は仕事を遂行する上での基本的な姿勢として大変参考になるし、私の体験からしても、結果はともあれ、うなずけるところです。
近年、次の職場も決まっていないのに2〜3年で辞めていってしまう職員が、親愛会でもぽつぽつと見られるようになりました。私たち職員は、各自の段階において、もう一度、仕事をするということの意味(姿勢)を自らの中に問い直してみることも必要かと思われます。そして、次の世代を引継ぐプロに育ってほしいと願うのであります。
(理事長 矢部 薫)