福祉という“感情労働”〜メンタルヘルスの視点〜

昨年12月より「ストレスチェック制度」が開始されました。労働安全衛生法の改正により、従業員50人以上の事業所では年1回のストレスチェックが義務付けられたのです。内容は、ストレスに関する質問票に労働者が記入し、それを集計・分析しストレス状態を調べる検査で、それにより、うつなどのメンタルヘルス不調の予防に役立てるというものです。
親愛会では、川越親愛センターとみどりのまち親愛の2事業所が該当します。1年以内に実施しなければなりませんので、職員が当該の研修会に参加して、制度導入の準備に入っています。
埼玉県社協の発行する広報紙『SAI』2月号には、県立大学看護学科教授の横山惠子氏による、興味深い記事『福祉を考える“福祉の職場におけるメンタルヘルス”』が掲載されていましたので、抜粋してご紹介したいと思います。
社会学者のホックシールドは、肉体労働・頭脳労働に並ぶ第3の労働形態として、「感情労働」という概念を示しました。「感情労働」とは、対人援助を行う仕事のことで、福祉職・医療職はこれに含まれます。こうした労働には、「気配り」「やさしさ」「思いやり」を持つことが期待され、自分の感情を管理することが必要となります。また、医療・福祉職には利用者の苦悩に共感することが求められ、その結果、共感的ストレスからくる感情疲労を起こして、バーンアウト燃え尽き症候群)につながる危険性があります」
インターネットで少し調べてみますと、「肉体労働や頭脳労働の疲労は休憩、休暇によって回復することが可能ですが、感情労働に伴う感情の疲労や心の傷は、単に体を休めただけでは回復しにくいといわれます。仕事が終わっても、相手から投げつけられた厳しい叱責や罵倒の言葉などが頭を離れず、気持ちの切り替えができない。その結果、ストレスによるメンタルヘルスの不調を発するケースも少なくありません(『日本の人事部』“感情労働”より抜粋)」とありました。
親愛会でも、程度の差はあるにしても、一時(いっとき)、大なり小なり“燃え尽きた”ような症状にとらわれたことのある職員は多いかと思います。そのバーンアウトにつながるのが、第3の労働形態としての“感情労働”という概念だというのです。
さらに調べますと、関西学院大学商学部教授の渡辺敏雄氏の論文『商品としての感情』に、ホックシールドの見解がよく整理されています。
「第1の類型は、労働者が余りに衷心から職務に一体化する場合であり、この場合には、労働者は、燃え尽きる危険を冒す。
第2の類型は、労働者が職務上の演技と中心的な自己を区別し、その限りで燃え尽きる危険が少ない場合である。この場合、労働者は、明瞭なこの区別を恥じていて、誠実ではなく単なる演技者である自分を低く評価している。
第3の類型は、労働者が自分を労働から区別しているが、このことによって、自分を責めることなく、むしろ仕事を、演技する能力を積極的に必要とするものとして見ている。この場合、労働者は、ギアを入れて演技に没頭して、「私達は、ただの幻想請負人なのだ」という、演技についてのシニカルな態度もみられる」
「役割に対する過度の一体化によって燃え尽きる危険を伴う第1の類型と比較すると、第2の類型は、労働者は、演技をすることによって、自分と役割との健全な切り離しを行ない、詐欺性を批判されることはあっても、燃え尽きることへの耐久性を高めている。
同様に、第1の類型と比較すると、第3の類型は、演技に没頭するだけに、仕事からも遠ざかっていくので、燃え尽きることへの耐久性は高い」というのです。
ちなみに、小生のごときは、かねてより、偉大な先人たちのように身も心も社会福祉に捧げることのできない自分を恥じ、演技者として見透かされることを恐れつつ、いつしか身についたギアチェンジに馴れて・・・、さすがに“幻想請負人”などという態度までとると社会福祉従事者として誤解されますが、どうにかバーンアウトを回避して生きてきたように思います。
もちろん、ホックシールドの「中心的自己」(の存在)を知るという意味合いにおいては、3類型の上述にとどまるものではありません。ホックシールドは、「全ての3つの類型において、本質的問題は、役割に自己が入り込むことを認めつつ、役割が自己に加えるストレスを最小限にするようなやり方において、自己をいかに役割に順応させるか、ということである」と問題提起しています。
私たちは、まずは自らの類型を自覚し、他方、同僚・後輩など他の職員の類型を把握して、感情労働の中にあって燃え尽きることのないよう、職場における“心の健康”に心がけなければならないのだと思います。
(理事長 矢部 薫)