暴風被害~台風15号による教訓~

「それよりも、先日の台風の被害はいかがでしたか」
伊豆七島の利島(としま)に住む友人からかかってきた電話で、開口一番、先方の用件を制して私が発言したものですから、少し間をおいてから、
「ここは30分くらいの停電で済んだが、場所によってはもっと時間がかかった。そうそう、僕は用事があって留守をしていて詳しいことは知らないが、先日、都知事が島の被災状況の現地視察に来た。家は大丈夫だったけど、物置の屋根が飛ばされて、雨に濡れっぱなし。これからでも少し片づけないと、と思っている。あとは、山の倒木が激しくて、後始末に時間がかかる」
と、冷静で簡潔な説明がありました。
これは、9月8~9日にかけて関東地方を直撃した台風15号の被害に関することで、10日も経っているというのに、千葉県、伊豆七島を中心に当初の見込みと違ってなかなか電気が復旧しない状況下での電話でした。
時はさかのぼって、50年近くも前のこと。私は、当時在籍していた大学のワンダーフォーゲルクラブの春合宿で、日本国への返還(本土復帰)を翌年(1972年5月)に控えた沖縄に行ったことがありました。今でも鮮やかに覚えていますが、那覇市内、特に平和通り(繁華街)はさすがに高層階の店舗が建ち並んでいて、一般住宅も含め鉄筋コンクリート(RC)造の多い、都会そのものでした。他方、石垣島、さらに西表島竹富島に及んでは、沖縄ならではの漆喰で固めた赤い瓦の木造建築がほとんどで、その分、私たち旅行者は異国情緒たっぷりの琉球のたたずまいを味わうことができました。
それから約30年後に、現在の親愛センター通所部の皆さんと沖縄本島を訪れた時には、よりRC化が進んで、観光スポット以外は軒並み“コンクリの家”ばかりとなっていて、本島に住む旧友の言うには「毎年のように台風が直撃するから、傷んで建て替えるたびにRCになっていくさ」ということでした。ちなみに、IJU.OKINAWA(現地発信型沖縄移住情報)によると、「総務省統計局2015年2月の調査では、沖縄県全体の94%がRC造、木造がわずかに5%で、戦後の<戦争による木材の不足とアメリカ統治>に、加えて<台風による災害>が大きな要因」とのことで、旧友の言をさらに裏打ちするものでした。
過去10年間の沖縄・奄美の台風接近数は年平均8個(気象庁調べ)で、しかもほとんどが日本の南東海上からの直撃で、今回の台風15号のような破壊力をもったものと考えられます。
毎日流れるテレビニュースの画面から、千葉県内の崩れた屋根に次々かけられた降雨対策用の青色シートの家並みを見るにつけ、前述のことが思い起こされるのでした。
加えて、本台風による電柱倒壊にまで及ぶ停電被害は、私の知るところでは、千葉県内の郊外では遅いながらも比較的早くに復旧したものの、電線が錯そうする市街地及びその周辺では困難を極め時間がかかっているとのことです。当初の電力会社の見込みよりもはるかに広範囲かつ長期に及んでいて、今なお電気のない生活を強いられているところも多く、最終的な復旧は月末の27日にもなるとの報道には、全く心を痛めます。
今や、水とともにライフライン(命綱)中の筆頭ともいえる電気の不通が、私たちの生活全般に及ぼす影響は大きく、冷房の利かない生活を強いられた高齢者が相次いで熱中症でお亡くなりになったほどです。
13日、夜7時のNHKニュースで、前述の現地視察を前にした小池東京都知事は「島しょ部などで電柱を地中に埋設する無電柱化の取り組みを加速していく考えを示した」との報道がありました。
これについて、『沖縄県無電柱化推進計画』(2019.3)によれば「地震津波、台風などの自然災害による電柱倒壊」の被害(予測)は深刻で、沖縄でも無電柱化は喫緊の課題だとのことです。
さらに、本台風は、携帯電話の一部の基地局を倒壊させ、電話・ファックス・メールなどの情報インフラをマヒさせてしまったと報道されています。
川越市ハザードマップ』によれば、親愛会の各事業所では、一部のグループホームで近くに内水による潜在的危険性のある区域があるものの、①地震 ②土砂災害 ③洪水 ④内水のいずれにも該当しないことが分かります。ちなみに、みどりのまち親愛の開設時の地盤調査及び飲用井戸掘り時のデータによると、地下100メートル付近に普通の機材では貫通できないような固い岩盤層がみられるということでした。
しかしながら、油断禁物!です。
まずは、現在、法人内の防災委員会で作業が進められている、携帯メールでの安否確認機能の整備を急ぎ、引続き食料品等災害備蓄品の充実に努めるなど、できる範囲の対策を着実に講じていかなければならないのだと思います。
(理事長 矢部 薫)